第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
坂本は珍しく一言も喋らず、黙々と床拭きをこなしている。
その方が静かでいいはずなのに、いつもとは違う空気に高杉は違和感がありすぎた。
さっきまで論争タイムだった2人を、同じ担当にさせるとは、どんな神経をしてるのだろうか?
(ヅラの奴。もっとマシな配置が他にもあっただろ?)
しかし、このようなことをしたのは何の理由もなしではない。
恐らく、さっきの暴行したことで謝罪すべきだという意図があるのだ。
第一、ここは戦場だということをわすれてはいけない。
敵を倒すためにこの場にいるのに、内部が崩れてしまっては言語道断。
桂は今まで、軍を率いる将としてそんな些細なもめ事も見過ごさず、正しい対処をしてきたと言っても過言ではない。
高杉も同じ仲間として、そのことは理解していた。
(確かにこのままだと後味の良くないものが残るのは、俺でも分かってる)
高杉は坂本にさっきのことを謝ると、あっさり許されてまたいつもの調子に戻った。
2人がかりでかなり掃除は進み、廊下のほとんどが拭き終わった。
残りの部分も終わらせようと、しゃがんだ状態で廊下を一気に進んだら、
(そうか…ここは)
今さらになって気付いた。自分たちはちょうど、雅の部屋の前の床を掃除していたんだと。
襖はしっかり閉まって中は見えないが、誰もいないと何となく分かった。
(今、部屋にいないのか。まさか…な)
さっきの自分の思い込みが、本当は本当だったんじゃないか。
「どした高杉?レディーの部屋の前で待ち焦がれて」
何か誤解を生みそうなことを発言して、高杉の隣に来た。
この二人が並ぶと、身長差がよく目立つ。
「何か用があるんじゃったら、ノックすればいいじゃろ?」
「いや、多分留守だ」
雅の部屋に行き慣れてるから分かったのだろうか…
「ちょっと確認してみるかの」
坂本が襖に手を伸ばすと、
ガッ!
急に誰かが横から、坂本の腕を掴んできた。
「何の用?」
それは、たった今部屋に戻ってきたらしい雅だった。
「雅!」
高杉にとっては昨夜ぶりに会う。
「いや用はないんじゃ。ただ様子を見たかっただけで」
「…さっき言ったはず。部屋は開けないで」
それだけ伝え、部屋に入らずまたどこかへ行ってしまった。