第9章 親に見つかりたくねーもんがあるなら部屋は幾度か掃除しとけ
桂は、坂本を掴んでいる高杉の腕を掴んで止めようとする。
突如起こった修羅場に、さすがに周りも愕然とした。
喧嘩はいつものことだが、今回は高杉が“マジ”(本気)な感じになっている。
「冗談じゃ冗談。本気じゃないぜよ」
銀時とは違って短気ではない坂本。
暴行を加えられそうな状況でも、カッとなることはない。
「だったら余計に癪だ。てめェは冗談の限度っつーもんがねェのか?」
高杉はさらに手の力を強めた。
「止めんか朝っぱらから。坂本もそうだ」
さすが昔から高杉と銀時の喧嘩を収めてきただけあり、高杉が怒っているわけをちゃんとわかっていた。
「すまんの、言い方が悪かった。人じゃないというても、比喩表現じゃ。癒しの天使とか女神様とかただの世辞ぜよ」
高杉は下らない言葉に頭を冷やし、投げやりに手を放した。
(アイツが“敵”(天人)に何て呼ばれてんのか、てめェもよく知ってるだろ)
『むしろ、私に似付かわしいよ』
アイツは自分であんなこと言ってたが、本心は…
『アンタは私を、人間離れしてるって思ったことはある?』
敵に罵られ挙げ句に“俺たち”(味方)にも言われちゃしまいだろ
高杉は昨日の雅の言葉を思いながらイライラした。
「悪かったぜよ。それにあの銀時のタフさに比べれば、雅は可愛いものじゃろ」
強さもバケモノレベルの敵や仲間にも恐れられる、戦で血に濡れながら戦う銀時に、
仲間には癒やしの女医と目をかけられる雅
確かに彼女は女でもあって、むさ苦しそうな男に比べれば愛らしい
「やめてください、総督も坂本さんも。いくら慣れた喧嘩でも、一番見たくないのは雅さんですよ」
1人の志士が声をかけると、その場は静まり返った。
「よし、そろそろ本題に入るぞ。まずそれぞれの掃除担当だが…」
桂が大掃除に備えて指示し始めた。
高杉は坂本に一言悪ィと言ってから、集団から距離を取った。
些細なことでも、取りあえず1人になって一旦落ち着くのは、誰でもよくやる。
(辰馬の奴、言い方がややこしいんだよ…)
昨日の雅の話もあって、アイツのことになると…
カサッ
(!)
向こうの茂みの中から、枝を折ったみたいな微かに音がした
誰かいるのか?
「誰だ?」