第8章 夜更けって怖いけど大人になった気分がしてワクワクする
そんな波乱万丈な時が過ぎ、松陽はまた別の場所で塾を開いた
場所を一度失っても、逆に教え子はまた新たに加わった
それも随分ずる賢そうな悪ガキで、松陽はさらに手が掛かりそうだと思った
同時に、この子たちはこの先どんな侍になるのだろうと期待も込めて
よって松下村塾はまた賑やかになる中、独りただすみっこで立っているだけの女の子がいた
その少女は先日の一件をきっかけに、松陽にようやく心を許したように思えた
が、周囲への警戒は解いても口数も少なく、他の生徒と信頼関係を築くことはしなかった
あの少年が、現れるまでは…
数日が経ったある日、例の新しく入った生きのいい塾生の1人の試合相手として、松陽は少女を推薦した
その時は先生からの指示であって、彼女の意志ではなかった
だから、試合相手の少年のことなんぞ、全く眼中になかった
そしてその少年も、少女のそんな無愛想なところを毛嫌いし、お互い見ようともしなかった
ところが、ふと些細なことが契機となり、少年は毛嫌いしてた少女に決闘を申し込んだ
松陽は、少女が道場でまた試合をし 勝ったあとに他の教え子たちに囲まれている姿を見て、心の底からホッとした
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独りぼっちではない彼女をようやく見れたと
子供というのは無限の可能性を秘めている
将来どんな人間になりどんな侍になるのか、決めるのは彼ら自身である
そして、それまでの道筋でどんなことが起こるのかなど誰にも分からない
ズタボロになるほどの辛い現実や、もしくは思い掛けない幸福に巡り会うかもしれない
小さな侍たちがそんな中で自分なりに成長していこうとする姿を、松陽は誰よりも喜ばしく見ていたのかもしれない
攘夷戦争で必死に戦い続ける彼らも、今まさにその中にいるのだろう…
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「どうしたんだ?」
呼びかけてもその体はピクリとも動かない。
銀時と高杉は顔を見合わせてからまた、床に臥せている人間に話しかけた。
「お、おい…」
明らかにおかしいと真剣な空気に変わり、高杉は体を揺らした。
『!』
口には、血を吐いたような跡が。
よく見たら、赤い液体は床にも広がって。
そして、その人間の顔を確認した途端2人は言葉を失った。
そんなことが、あるはずが…
「ヅ…ラ…?」