第8章 夜更けって怖いけど大人になった気分がしてワクワクする
「__雅…ですか。素敵な名前ですね」
初めて耳にした彼女の名前。
“気高さ”と“美しさ”両方を兼ね備えた、そんな意味合いを込めたような名。
まさしく、彼女にぴったりだと心から思った。
「では雅。そろそろ行きましょう」
2人は夜道を歩き始めた。
少女は松陽の後ろ姿をじっと見据えてた。
松陽はいつも晴れ晴れとした人だが、なんだかルンルン気分のように見えた。
名前を教えてもらったことが、そんなに嬉しかったのだろうか。
(こんな世の中にまさか…こんな人が存在するなんて…)
主君への忠誠だ国が全てだの下らない潮流の中に、そんなものをひっくり返しかねない者が…
(それに…)
“辛い経験をした人は、優しい人間になれる”
それが本当なら…
(松陽先生は一体…どんな辛い経験をしてきたんだろう…?)
しかし少女は、松陽からその答えを聞くことはなかった。
しばらく歩くと、役人がちらほら集まってるのを見つけ、そこには銀時と道場破りの少年と黒長髪もいた。
(あれは…)
少女は先生の指示で隠れて、松陽は背後からゆっくり近付いた。
それに動揺する役人。
目に見えない素早い捌きで刀を折られた。
その強さと圧に、役人はびびって姿を消した。
その一部始終を見た少女は改めて驚かされた。
松陽の底無し沼の強さに。
松陽はやれやれと悪ガキ3人の元へ。
破る道場はもうないと道場破りに言うと、ソイツは笑ってこう返した。
「心配いらねェよ。俺が破りてェのは道場じゃねェ。アンタだよ。松陽先生」
「我等にとっては先生がいる所なら野原であろうと畑であろうと学舎です」
黒長髪の少年も続いて言い表した。
「それに、アンタの武士道も俺達の武士道もこんなんで折れる程ヤワじゃないだろ」
子供らしくない言いぶりに、またやれやれと漏らした。
「……銀時。こりゃまた君以上に、生意気そうな生徒を連れてきたものですね」
「そうだろ」
銀時は本心では、新しい仲間が増えて喜んでるようなそんな笑みを浮かべた。
「そうですか。では早速路傍で授業を1つ。
ハンパ者が夜遊びなんて百年早い」
3人は地面にめり込むほどのゲンコツを食らった。
「松下村塾へようこそ」
この日の夜、2人の…いや
・
3人の正式な教え子ができたのであった