第8章 夜更けって怖いけど大人になった気分がしてワクワクする
暗闇の中微かに見える、吉田松陽の微笑みを眺めながら思い見る。
初めて会った時も、こんな状況も、この男は笑顔を絶やすことはないんだなと。
相手が自分の言葉や微笑みに全く反応しなくとも、松陽は先生として優しく述べた。
「教え子1人も護れなければ、私は私の武士道に反することになります。それに比べれば…道場の1つや2つ、安いものです」
この時、松陽は一瞬 悲しそうな目をしたが、少女は全く気付かなかった。
「…何で…そこまで…」
素性も知れない自分を“愛弟子”なんて、何故そんな風に思える。何故そんなお人好しなんだ
これほどの強さを持つ人が
すると松陽は、
「君は今まで…人一倍、大変な思いをしてきたんじゃないですか?」
「!」
少女は数歩ほど松陽から距離を取った。
「これはあくまで私の想像で、決して詮索ではありません。アナタからしたら、気分を害すかもしれませんが話だけでも聞いてください。何も、答えなくていいですから」
少女の気持ちを汲み取って、優しく声をかけた。
その提案に少女は無言で小さく頷き、松陽はありがとうとまた微笑んだ。
「初めて君を見たとき、そう思ったんです。
あの銀時と同じ、君はちょっと“特殊”(周りと少し違う)なんだと」
同時に彼は、無数の死体に囲まれた1人の少年に初めて出会った時のことを、不思議と思い出されていた。
すると、無言の彼女は口を開いた。
「……そうだったら…何故そんな子供に…関わろうと思ったんですか?」
可哀想だと同情したから?
周りに畏怖されてきた存在を、手元に置いておけばどうなるか。この人は知ってるはず
今の私と…ソイツを見れば分かる
「仮に、私の想像が本当だということにしましょう。
だからこそ、そのアナタなら誰よりも優しくなれるんじゃないですか?」
(!)
思いがけない言葉に、少女は顔を上げた。
「人生や些細なことでも、辛い経験した人はその思いを他の人にしてほしくないと願うことがあるんです。だからその人は、誰よりも優しくなれるのです」
何を…言って…
私が……そんな…
松陽はそっと手を出し、少女の頭を撫でた。
「もっとも君は人を救う術を持っている。その点でも、君は周りとは違います。
だからこそ今でもそう、これからも君は誰よりも優しい人間になれる。私はそう思ってます」