第8章 夜更けって怖いけど大人になった気分がしてワクワクする
「よ、吉田松陽!貴様…!」
本来の目的である男が今ここに…!
刀はビクとも動かない!
「この子がご迷惑をおかけしたのであれば、それは指導者である私の責任です。アナタがたが私にどうしようと構いません。しかし…」
途端にその刀は折れ、それを見た役人はまた恐る恐る後ろを見た。
「私の大事な愛弟子を傷付けるとなれば、私は本当の“鬼”になりますよ」
さっきまでの表情とは全く違うその強面に、役人は怖じ気づき、薬の効果で今度は本当に意識を放した。
少女はゆっくり体を起こし自分の刀を拾った。
振り返れば、吉田松陽が立っている。
普通の表情に戻っているが、何て言われるか いや叱られるか分かってた。
子供が夜更けに出歩くことさえ言語道断だ。
少女は逃げることなく松陽の前まで来た。
癇癪を起こされても当然だ。いや、こうなることは行動する前から承知してた。
「ケガはありませんか?」
「……はい」
「そうですか。じゃあ行きましょう」
たったのこれだけで、つい声を出してしまうくらい驚いた。
「あの…他に言うことは…ないんですか…?」
大人を複数人も手にかけた。本来なら見過ごす訳にも行かないほどの悪行だ。
しかも、ケガの心配をしてくれて。
「そうですね。強いて言うなら…」
松陽は少女の方に体を向け、正面から見て言った。
「君は簡単に自分の命を危険に晒した。そのことはちゃんと、反省してほしいですね」
優しい笑みと声で叱りつけられ、少女はやはり実感が持てなかった。
自分の手の中の刀を見た。
(私はこの刀で、また人を傷付けた。破門になっても…)
「まさか、そんなことはしませんよ」
心の中も読まれた。もう人間技じゃない
「もしそうなら、銀時は君よりもよっぽどです。最も、君は銀時の悪ガキが移ったんじゃないですか?」
またそうやって笑って言って、何故そんなに笑えるのかと不思議に思った。
「もちろん、ただの冗談ですよ。君たちは私の大切な生徒ですから」
「でも…松下村塾は…」
明日になればきっともう…
松陽は微笑みを絶えずに、優しく教えた。
「場所など、いくらでも代えはあり何度でも開けます。
ですが教え子は一人一人掛け替えのない存在です。代わりなどいません。教え子たちがいて初めてそこは、学舎と呼ばれるのです。もちろん、君もその1人です」