第8章 夜更けって怖いけど大人になった気分がしてワクワクする
役人は段々と、刀を握る力も入らなくなり目もかすんできた。
その様子を見て、もう立つこともままならないだろう。
「時間が経てば…効力は切れる」
ついに役人は顔を地面に伏せ、動かなくなった。
意識を手放したようだ。
少女はふと、暗闇の向こう側を見た。
恐らく銀時がいる方向だ。
(………)
全て片付け、役人たちが目を覚ます前に立ち去ろうと、向こうへ足を運んだ。その時
ガシッ!
(!)
突如、足にかかった違和感に何だと思った瞬間、視界が反転した。
そのまま地面に叩きつけられ、持っていた真剣を奪われた。
体が打ち付けられた衝撃で目を閉じて、開けると眠ったはずの役人が。
(どうして…)
少女は力の差が歴然の相手に、抵抗せず状況を冷静に把握した。
役人の腕にはでつけた相当深い刀傷が
血が滴っている。私がつけたものではない
(まさか…自分で切って…)
眠気よりも痛覚を起こすことによって、自身の意識を保ったということか
「医療に携わるとは驚かされた。だが、童ごときが大人のつもりか?」
役人は真剣を抜き、刃先を少女に向けた。
先ほどとは真逆の状況だ。
「ならば知ってるであろう。片方まなこを失っても死ぬことはないと」
明らかに絶体絶命の状況に置かれてるにも関わらず、彼女は自分が優位だったさっきと変わらず平然とした。
役人の顔を見て思っていた。
子供を傷付ける躊躇はもうなくなった。
このままだと、自分は抵抗できなくなるくらいの傷を負わされ牢獄まで連行されると。
「成人の浪人や賊であれば即処分するが、貴様のような小童は
・
命は奪われずに済む」
“コイツは危険だ。野放しにはできない”
役人は刀を振り上げた。
脅しではなく、間違いなく少女の目を潰すつもりで。
それでも、動揺も焦りもせず無言ただじっと自分を見る少女を不気味に思いながら、刀を振り下ろそうとした。が、
突如、後ろから伸びた手がそれを止めた。
「なッ!」
(?)
こんな時間に一体誰だと、少女は役人の後ろにいる人を確かめた。
「まさかこんな夜更けに、大人も出ざるを得ないほどの小さな悪童がいるとは」
(え…?)
その優しい声に驚き、少女は体を起こしてはっきり見た。
(吉田…松陽……?)
いつもの笑顔をしてそこに立っていた。