第8章 夜更けって怖いけど大人になった気分がしてワクワクする
突然の事態に驚くも、状況をすぐに把握した。
信じがたいが、こんな童ごときに仲間の1人がやられたのだ。
しかも、たった一撃で人を気絶させるのは、少なくともただの子供が出来ることではない。
しかもこの暗闇で、そんなこと…
(む…!。コイツ 左利きか?)
左手に真剣を持っている。
珍しいなと思うも、警戒心を怠らない。
「何者だ?たとえ童であろうと“我ら”(国家)に仇なす者は逆賊として処罰する」
いつでも刀を抜ける構えをして、容赦しないことを見せ付ける。
しかし少女は全く動じない。
今まで、子供1人に容赦なく襲ってくる相手に出くわしたこともあり、それに比べれば恐れなどなかった。
「賊で結構。悪者だろうが善人だろうが…幕府がたてた仁義に…従う気はない」
妙に落ち着いてる声と冷ややかな雰囲気に、間違いなくただ者ではないと確信し、役人たちは冷や汗をかく。
そう言いつつも、少女は鞘から刀を抜く気配がなかった。
「貴様、まさか松下村塾の人間か?」
役人の1人が聞くと、その童は無言でいた。否定しないということはクロだ。
「なら、つじつまが合う。貴様を見れば吉田松陽の噂が本当なのは明白だ」
他の役人たちも納得した様子になった。
正体が分からない童に刀を向けるのは躊躇するも、明らかな反乱分子となれば別。
“何も知らない子供が、怪しい浪人に悪行を植え付けられた”
元々は何の罪もない子供なら同情と哀れに思えるが、暴行を加えたことでその哀れみは敵意に変わった。
国を敵に回した。
「大人しく武器を捨てれば、こちらも手荒な真似はしない」
しかし少女は真剣をぐっと握りしめた。
「あの人を連れて行かれたら…こっちも都合が悪くなる。そこから先を…通すわけにはいかない」
手を引く気もなく、役人たちはとうとう刀を抜いた。
「すでに目的地へ向かった者はいる。貴様のような童ごときが足掻いたところで止められまい」
戦意喪失させるつもりか、役人は声を張ったが、少女にとっては全くの戯れ言だった。
(否…まだいる…)
私より、貴様らよりよっぽど上の奴が向こうに…
役人たちは一斉に襲いかかり、少女は鞘のままの刀を構えた。
誰に何と思われようと…どうでもいい…
でも…あの場所を失うわけにはいかない