第8章 夜更けって怖いけど大人になった気分がしてワクワクする
「アンタが…これからどこに行こうと何をしようと、どうでもいいこと。悪ガキ1人が、悪いことしたところで…私は何も見てないし何も知らない」
少女は感情がこもらないつれない言葉を淡々と並べる。
銀時は少女に背を向け、手に持ってる木刀を肩にかけた。
「そーだな。いつも夜中外にいる奴が、気まぐれでその悪ガキについていって、夜遊びしに行ったとしても、俺は何も見てねェし何も知らねェよ」
松下村塾がこれから潰されしまうこの緊急時、お互いの考えてることは見透かしていた。
銀時は慣れっこであまり動揺してない様子ではあるが。
互いに確認するまでもなく、2人の間に若干の沈黙が続いた。
少女はさっきより強まる寒気と、それに準ずる時間の経過を感じた。
もうここでだべる余裕もなさそうだ。そもそも彼女はそうするつもりもないが。
それでも最後に1つだけ、今まで抱いてた疑問を聞いた。
「吉田松陽って、一体何者?」
自分を助け、何故ここまで面倒を見てくれるのか、未だに分からないままで、
あの男と一番長く過ごしてる銀時なら知ってると思った。
銀時は少しだけ振り向き、彼女の顔を見た。
俯いて少し怪訝そうにしてるその表情を見て、
自分も本人に同じ質問をした時、そんな顔になってたかもなと思った。
「そんなの、俺が聞きてェくらいだ。あんなバケモンみたいな強さ、一体どこで身に付けたんだが」
そう言って鼻くそをほじって飛ばした。
「分かんのは、アイツの強さもその正体とやらも普通じゃねェってことくらいだ」
“屍を食らう鬼と呼ばれていた君なら解るでしょう。化物も化物の子も同じですよ
化物とは人ならざるもの。血濡れた業の中でしか生まれない
“化物”(ばけもの)の剣では“私”(ばけもの)は斬れません”
あんなこと、普通の人間は言わない。
それが自分であるかのように話して、銀時もその時、
自身と松陽との間の、似通った奇妙な繋がりを実感したのかもしれない。
「松陽が俺やお前に恩を売ったのは、自分と同じ普通じゃねーガキ共を見過ごせなかったんじゃねーか?」
少女は黙ったまま、銀時の言ったことにすごく納得した。
彼女自身、自分が他の人間と何かが違うことをずっと思ってきたからだ。
「それに松陽に限らず、お前も実際自分のこと話したがらないだろ」
「それは…」