第8章 夜更けって怖いけど大人になった気分がしてワクワクする
「…んな昔のこと覚えてねェよ」
昔を懐かしむ彼女のことを不思議に思いながら、銀時は自分の首に触れて傾げた。
「ならいい。今言ったことは忘れて」
用を終えて立ち去ろうとするも、銀時に背を向けたまま、さらに付け加えた。
「銀。私にわざわざ口止めをお願いする必要はないよ。破る気は毛頭ないし、何より互い様だから」
雅はまた暗い廊下の奥の方に消え、その背中が見えなくなると銀時も自分の寝室に入った。
パタン
障子を静かに閉め、数十分ぶりの恋しい布団の中に入った。
両手を頭の後ろで組み一呼吸して、しばらく見慣れた天井を眺めた。
・・
(また…か)
アイツは人情がかけてるなんて周りから言われてる
笑いもしなく情も表に出さねェ
(だが、もし本当に根っからそうなら、
・・・
あんな昔の、しかもそんな大したことのねェ出来事を覚えてるわけねェもんな)
それに覚えていたさ一応
さっきがきっかけで今思い出した
(人の過去とか境遇とか、そんな重要なことかね…)
俺はそんな、人のプライベート覗こうとか思っちゃいねー
覗くんならもっと愛想のいい可愛い娘のほうがいいぜ
ただ、アイツには
他の奴らと少し違ェ何かがあんのは分かる
人のことは言えねェがな…
段々と思考が鈍り重たいまぶたを閉じ、銀時はとうとう眠りについた。
あれはまだ、マフラーを身に付けるほど肌寒い夜のこと
子供が出歩くような時間ではない、夜更けの出来事…
回想
〈松下村塾〉
月明かりが際立つ夜
塾にはすでに、子供たちの姿は見当たらない
それはそうだ。教え子はとっくに家に帰る時間だ
ただ2名を除いて
庭で1人、月をじっと見つめる子供がいた
青い長髪の、表情何一つ変えない少女
色々考え込んで眠れなく、外の風に当たりに来ていた
何をそんなに思い詰めてるかというと、夕方銀時の会話を偶然小耳に挟んでしまった
(あの黒い長髪が言ったことが本当なら、この塾は今夜締め出される…)
何事にも動じない彼女でも、さすがに帰る場所を失うとなるといてもたってもいられなかった