第6章 継続は力なり
部屋にいる時、
雅は窓の段差に腰を据えて高杉は部屋のちょうど真ん中らへんに座る。
お互いの声をちゃんと聞き取れる距離を保ちつつ、治療を除きそれ以上近付かない。
彼女も窓の外の桜を眺めたりして、自ら高杉と面と向かって話すこともあまりしない。
ので、こんな近距離で酒を一緒に嗜むのも滅多にない機会であった。
(バカとこの近距離で話し聞くのァ、確かに誰でもしんどくなるかもな…)
耳元にスピーカーがあるような感じだ。
高杉は自分の杯に追加の酒を注ぐと、隣から何の前触れもなく空の杯を突き出された。
「?」
唐突すぎて一瞬何だと思ったが、その意図を察して雅の杯にも酒をついだ。
それをあまり変わらない表情で飲む雅。
その平然っぷりに改めて驚かされる。
(酒飲みで辰馬に勝つとはな…)
坂本は広間の隅っこで気持ちよさそうに寝ている。
念願の女の酌を貰えて気分がいいのか。
雅も久しぶりのお酒で気分が良さそうに見える。
その様子から、十分なリフレッシュになってるなと、自分も何だが安堵の気持ちになった。
(しっかし、何を話せばいいんだが…)
膝に肘を乗せてその上に頬杖を付いて考えた。
生憎、自分は辰馬のように面白い話も、あったとしてもそれをうまく口述する術を持ち合わせちゃいない。
部屋ではナチュラルに話せたものの、あんなしんみりとした話よりももっと明るくなる話を・・・ないな
(クソッ。普段面倒くせェ奴ら相手してるせいで、女が喜ぶ話が浮かばねェ)
※ひょっとして、遊郭での出来事のことまだ引きずってるのか…?
そんな苦悩してる高杉に、雅はそっと言った。
「辰馬の話…気にしない方がいいよ」
杯を足元に置いて、一旦飲むのを止めた。
「別にしねーよ。アイツの戯れ言なんざ耳慣れしてらァ」
「違いない」
雅も、高杉の言うこと丸々共感した。
聞きたいわけでもないのに、普段も声のデカさのせいで耳に入ってしまうのだ
普通の声でもあんな喋られると、こっちも対応が難しくなる
そんな明らかに自分とは正反対の人と二人きりは確かに大変だった
慣れないことはするもんじゃないな…
辰馬は晋助のことで色々言ってたが、一言だけ言えばよかった
“晋助は、アンタが言うような奴じゃない”と