第6章 継続は力なり
「どッ、どっからそんな話が沸いてくんだ?!」
あまりの突拍子もなさに、思わず声を上げる。
「す、すいません…。ですが高杉さんが他の人より、雅さんを見ていたので」
人間観察が恐ろしいと思ったのァ初めてかもしれねェ
いや、“黒子野が”の方が適切か
「だ、大丈夫がか?!」
聞き覚えのあるデカい声が聞こえ、その方を見ると坂本が咳をしてる雅を心配してた。
(ッて何でアイツも咳き込んでんだよ?)
妙な連帯感に、
まさか聞こえてたわけじゃねーよなァと一瞬疑った
「ほんまに大丈夫か?!血ィとか吐いてないかッ?!」
マジで迷惑そうにしてる雅が不憫に見え同情もしてしまう。
黒子野はそれにハハッとつい声に出して笑った。
「あんなに大げさにするほど、雅さんは貧弱じゃありませんよ」
同感だ
アイツはケガ自体もそんなにしないしな
高杉は色んなことに関してため息をついた。
「俺もてめーにすまねェことしたからな。さっき言ったことは水に流してやらァ」
自分の後頭部に触れて、やれやれだと呟いた。
「は、はい…。あと前から気になったのですが、高杉さんのことを唯一名前で呼ぶのも、雅さんだけですよね」
あぁ、意識したことなかったな
「……それァ昔の成り行きでそうなった」
試合の賭けで負けたからそうなっただけだ
どうでもよさそうにする高杉でも、黒子野は長年の観察力で培った それを応用する推理力を発揮した。
「でも、昔からそう呼んでるのはきっと高杉さんのことを大切に思ってるんですよ」
アイツのポーカーフェイスじゃ、そんな気持ちは見い出せないが
そしてその当の本人は、馬鹿みたいにはしゃいでる奴と全く逆の様子で、聞き流しながら酒を飲んでる
高杉はまるで励まされてるような気がし、黒子野の言うことに実感が持てなかった。が
「今回でも本当に心配してましたよ。また高杉さんにもしものことがあれば、雅さんもきっと悲しみますよ」
「!」
戦場で、奴が言ったことを思い出した。
『アンタがいなくなれば、悲しむ人もいるし』
あれァてっきり…
「ですから、もう彼女を心配させないよう、高杉さんも自分の体のことを考えてくださいね」
「……そうだな」
高杉はそれには否定せず、静かに酒を飲んだ。