第1章 デジタル長谷部
「主、顔をあげてください」
少し申し訳なさそうな長谷部の声が耳に届く。
そっと画面を覗くと、心配そうにこちらを見ている長谷部。
あれ。こんな立ち絵あったかな?
「いつもの立ち絵と違う気がするんだけど?」
「そりゃあ俺達もずっと同じ体勢という訳には行きませんし」
「今までそんなの見たことなかったけど」
「いきなりお見せして主を驚かせるわけにもいきませんからね」
「じゃあなんで今更私の声に反応してきたの?」
「俺達にも色々あるんです。それは後々お話ししましょう」
「あのー・・・長谷部たちはこの中で生きてる、の?」
「まぁ、そういう事になるでしょうね」
「で、そこで何してるの?」
「まさか主からそんな問いが出て来るとは思いませんでした。主の命により、時間遡行軍を阻止すべく日夜戦いの日々ですが?」
PCの中の長谷部もとい刀剣男士の中で、ゲームの出来事が彼らの現実、って事なんだろうか。
ストレス解消のために何となく始めたゲームが、新たなストレスを生む予感がする。
「言っておきますが主、この出来事に怯んで俺達を放置する、なんて事はくれぐれもしないようにお願いしますよ」
・・・先を読まれた。
「う、うん、今まで通りなるべくログインはするけどさ、ちょっと色々いきなりすぎて何が何だか」
「そうでしょうね。なので今夜はもうお休みください。お身体に障るといけません。明日の辰の刻までこちらとの接触を絶たせて頂きます」
こちらの返事も待たずに、いきなり画面がブラックアウトする。
・・・寝る前に遠征かけておきたかったんだけどな・・・