第7章 二人の宝物
少し憂いを帯びたような、
その横顔からはあどけなさが消え
消えてしまいそうな儚さが
千歳の美しさを際立たせていた。
「‥そのままで‥。」
「え?」
佐助の消え入りそうな程の声に
思わず聞き返す。
「‥そのままでいいと思う。」
少なくとも俺には
綺麗な一人の女性に見えるよ。
「佐助‥。」
その優しい眼差しの奥に
本人も気づいていない熱が
広がっているように見えた。
「あんなに小さかったのにね。」
感慨深いよ、とわざとらしく
目頭を抑えて見せる佐助。
「一言余計だよ。」
ふふっと二人で笑い合い、
帰り道をゆっくりと歩きだした。
「ただいまー。」
佐助は千歳を送り届けると、
幸村と凛さんによろしくと
それだけ言い残して夜に消えた。
「千歳姫様、お帰りなさいませ。」
「お父様とお母様は?」
「お部屋におられますよ。」
出迎えに来た女中は千歳の顔を見て
はた、と動きを止める。
「‥? どうかした?」
自分の顔に何かついてるのかと
両手で顔を触ってみる。
「あ、いえ、失礼致しました。」
なんだかお出かけになる時と
お顔が違う気が致しまして、と
女中は微笑んだ。
「そう‥かな?」
「ええ、すっきりされたような。」
なにか良いことがあったのですね、と
女中はニコニコとしている。
「ふふ、そうかも。」
湯殿の準備をして参りますね、と
女中が下がると千歳は
軽やかな足取りで両親の部屋に向かった。
(私は、私のやりたいように。)