第7章 二人の宝物
「お父様、お母様失礼します。」
「どうぞ。」
襖を開けると、ふわりと
凛の優しく笑顔が出迎えた。
「お帰り。丁度よかった。」
こっち、こっちと千歳を手招きする。
「なあに?」
ゆっくり近づくと、幸村の手の中に
やわらかな光が見えた。
「おー。千歳、見てみろ。」
「蛍だ!」
「ふふ、綺麗だよね。」
一匹だけ迷い込んで来たみたいなの、と
凛が微笑む。
千歳は先程まで佐助と見ていた
蛍を思い出す。
(よしっ。)
幸村の捕まえた蛍の優しい光に
背中を押されるように
千歳は大きく息を吸い込んだ。
「お父様、お母様。」
真剣味を帯びたその声に
二人がゆっくりと振り向く。
「‥何かあったのか?」
少し不安げな表情の幸村は
フッと空へと蛍を放つ。
「‥私ね、好きな人がいるの。」
「‥は?」
まあ!と嬉しそうな凛を横目に
幸村はあからさまに不機嫌になる。
「だから、縁談は全部断る。」
ごめんなさい、と頭を下げる。
「おー。それは‥いいけどよ。」
相手は誰だよ?知ってる奴か?
そのへんの変な奴じゃねえだろうな?と
矢継ぎ早に質問攻めする幸村。
「千歳の好きなようにしていいよ。」
幸村の質問攻めを柔らかい声が両断する。
「お母様‥。」
千歳は私達の宝物だから、
大事に大事に育ててきた。
でも縛るような事はしたくない。
心から人を好きになるって
凄く素敵な事だから。
「千歳が恋をした人なら‥」
きっと良い人だと思う、と
ふわりと頭を撫でる。
「ね?幸村?」
「お‥おー。」
ふいっと顔を逸らす幸村。
「まあ、なんだ‥。」
困った事があったら言えよ、と
横目で千歳を見やる。
俺らの大事な千歳を泣かせたら
そいつ‥殴りに行くから。
「‥お父様。」
千歳は、相変わらず
ぶっきらぼうな父親の言葉に
ふふっと笑ってみせた。
「お父様がやられちゃうかもよ。」
「なんだよ、それ。」
俺が負けるわけねー、と
拗ねたような表情を浮かべる幸村。
「‥で、どこのどいつだよ。」
なぜかソワソワする幸村。
「私は良いと思うけど。」
凛は女の感か、わかっているような
表情で千歳を見て微笑んでいる。
「‥あのね。」