第7章 二人の宝物
(逢いたい。)
千歳は目を閉じ思いを馳せる。
いつもフラッと現れては
取り留めのない話をするその人。
歳は親程離れているが、
小さく芽吹いた恋心は
いつの間にか大きく育っていた。
チラリと後ろを振り返れば
いつの間にか現れた幸村と
仲睦まじく縁側に座り、
幸せそうに微笑む凛が見えた。
(いいなあ。)
凛は昔、織田家ゆかりの姫で、
幸村とは敵同士だったと
聞いたことがある千歳は、
それでも結ばれ愛を育んだ両親を
少し羨ましく思う。
「今日はお休みなの?」
「おー。暇ができた。」
ぶっきらぼうな言い方をするものの
幸村の表情はどこか嬉しそうだ。
「そっか!じゃあゆっくり休んでね!」
お茶入れてくる!と立ち上がりかけた
凛の腕を咄嗟に掴んだ。
「あー、その、なんだ‥。」
空いた方の手でポリポリと頭を掻く。
「‥せっかくだし、お前もゆっくりしろよ。」
グっと凛を引き寄せ、
そのまま腕の中に閉じ込める。
「‥幸村。」
薄く頬を染め、幸村を見上げる凛。
そんな二人の姿は
長年連れ添った夫婦の愛にも見え、
想いを通わせたばかりのような
初々しい恋のようにも見える。
お父様くらいの武将になると
何人か側室を迎えるのが普通だと
家臣から聞いたことがある。
早く跡継ぎ様をと望む声も聞いた。
その為に昨日みたいに私に縁談を
持ちかけてくる人達もいる。
それでも、お父様は
凛がいるから他はいらねー。
の、一転張り。
(いいなあ。)
私もそんな風に一途に私だけを
思ってくれる人と添い遂げたい。
あの人は‥どうだろう。
それよりも、まず一人の女として
私を見てくれてるのかな?
千歳は小石を拾い上げ、
ポチャンと池に投げ込んだ。