第7章 二人の宝物
季節は初夏―――。
ジメジメした梅雨も終わり、
燦々と降り注ぐ夏の日差しに
いつの世も変わらぬ蝉の声。
「はあ‥。」
そんな清々しい朝に
重たいため息が聞こえる。
名は千歳。
歳は十三を迎えた年頃の女の子。
母親譲りの愛らしい顔立ちに、
父親譲りの栗色の綺麗な髪は
後ろで結い上げられている。
「千歳、こんなとこにいたの。」
「お母様‥。」
ふわりと優しく微笑む凛に
つられて微笑む千歳。
「どうかした?」
「ちょっと‥昨日の事で‥。」
ポツリと呟いた言葉に娘の心情を察して
凛はそっと頭を撫でた。
昨日、開かれた千歳のお披露目。
諸国の有力大名も集まり
盛大な宴が開かれ、
宴の最中、真田家との繋がりを
強めたいと有力大名達は我先にと
千歳に縁談を持ちかけてきていた。
「気にしなくていいよ。」
凛は安心させるように微笑んだ。
「千歳は千歳のしたいようにしたらいい。」
いつか素敵な恋をして
その人とずっと一緒に居たいと、
そう思える日まで。
「父様と母様もそうだったからね。」
と、凛ははにかむように笑った。
「ありがとう、お母様。」
千歳は凛の笑顔を見て、
心のモヤモヤが晴れたように
ホッと肩の力が抜ける。
「恋かあ‥。」
空を見上げ、眩しい日差しに目を細めた。