第7章 二人の宝物
「‥そんな感じだった。」
佐助は懐かしむように目を細める。
「その後も大変だったよね。」
凛を苦しめたのはコイツか!
なんて言い始めたりね、と謙信の真似をし
クスクスと凛が微笑む。
「あれは大変だったね。」
いつも飄々としている佐助の表情が
少しだけ和らいだ。
「なんの話だ?」
突然、背後から聞こえた低い声に
凛はビクッと肩を揺らした。
「謙信様!お疲れ様です。」
虎千代もお疲れ様、と凛は
新しい手ぬぐいとお茶を差し出す。
「虎千代君の産まれた時の話です。」
「僕の?」
謙信と同じ、二色の瞳で
ジッと佐助を見上げる。
出で立ちは謙信そのものだが
髪の色だけは凛に似た栗色。
もうすぐ五歳とは思えないほど
落ち着いていて、聡明だ。
こと、剣術に関しては
謙信譲りの感の良さと身のこなしで
メキメキと頭角を現している。
「そうだよ。虎千代の話。」
ふふっと凛が優しく微笑むと
虎千代は少し頬を染めた。
「母上‥。」
凛は虎千代の手を取り、
朝餉にしようね、と歩き出す。
「‥。」
その後ろで少し淋しげな謙信の横に
静かに佐助が歩み寄る。
「‥謙信様、僕で良ければ。」
スッと手を差し出す佐助。
「‥佐助。」
謙信はフッと微笑むと
差し出された佐助の手を取り、
一気に捻り上げたのだった。