第2章 どこまでも
――キンッ
優雅な仕草で刀身を鞘に収めると、
謙信の瞳がフッと和らぐ。
「凛‥こい。」
タタッと駆け寄り、愛しい人の胸に
顔を埋めると、謙信の両腕に捕えられ
強く抱き締められる。
「凛‥愛している。」
これ以上ない程の優しい声色で
謙信が囁く。
「私もです‥謙信様。」
顔を上げ、二色の瞳を見つめて微笑むと、
どちらからともいえず、唇が重なる。
「俺はお前の‥自由を奪ってでも離さぬ。
この俺が‥恐れているのだ。お前を失う事を。」
「謙信様、私はここにいます。
自分の意志で‥傍にいます。」
ギュっと謙信の抱きしめる。
謙信は凛の言葉を聞いて
安心したように目を細め、
本当は牢に囲ってしまいたいのだがな‥と
肩をすくめて穏やかに微笑んだ。
「凛、外に出たければ俺に言え。
時間は作ろう。他に望みはあるか?」
「いいえ、政務のお邪魔にならないよう
城下行こうと思っていただけなので。」
大丈夫ですよ、と微笑む。
「ならば傍にいろ。反物が見たければ
後で部屋に届けさせる。よいな?」
「はいっ」
そしてまたどちらからともなく口づけ、
暫らくの間、微笑み合っていた。
end.
【おまけ】
「あ、でも一つだけお願いがあります‥。」
「なんだ?」
凛は一瞬躊躇ったが、意を決したように
謙信を真っ直ぐ見つめる。
「あの‥その‥か、かわ‥‥。」
「なんだ?はやく言え。」
心なしか頬を薄紅に染めて口籠り、
視線を逸らしている。
そして、キッと謙信に向き直り‥
「か‥厠は一人で行きたいっ‥です。」
カーっと凛の頬が朱に染まる。
その瞬間、ドタドタドタっと襖が外れ、
佐助と信玄が襖ごと倒れ込んだ。
「‥‥あ。」
佐助が眼鏡をかけなおすと、
そのレンズには冷えきった表情で
見下す謙信と、姫鶴一文字の
ギラリと光る刀身が映っていた。
end.