第6章 幸せの欠片
ダダダダダッ―――
安土城の天守に続く廊下に
慌しい足音が響く。
「失礼っ!」
バンっと勢いよく襖を開くと
そこに凛の姿は無く、
安土城、城主の第六天魔王が
脇息にゆったりともたれ
待ち構えていた。
「慌しいな、政宗。」
持っていた扇子をパシンと閉じ、
ニヤリと笑う。
「‥お館様。」
そこに凛がいない事に
少し安堵した政宗は、乱れた息を整え
失礼致しましたと、頭を下げる。
「さて、俺で最後だか‥。」
俺に負ければ凛は返さん。
と、信長は不敵に笑みを深めた。
「‥おっと、返すのは小虎だったか。」
「‥先ほど光秀がここへ?」
先ほどの光秀の言葉が頭をよぎり、
信長の様子を伺う。
「‥?いや、来ておらんが?」
それがどうした?と訝しむ信長。
(‥やられた。)
光秀に騙された事に気付いた政宗は
はあ、と溜息を一つ吐いた。
「何でもございません。」
(なら、やる事は1つだ。)
政宗はスッと信長を見据えた。
「御館様、凛は譲れません。」
例え、相手が魔王でも
俺はあいつの"恋人"だから
到底、手放す気はない。
「ふん。抜かせ。」
信長はヒラヒラと紙切れを
手先で遊ばせると懐に仕舞い込んだ。
「お前の欲しい言葉はここにある。」
トントンと自身の心臓を指差す。
「政宗‥。」
名を呼ばれ、ゴクリと唾を飲む。
(なんだ‥なにがくる。)
圧倒されるような気迫に、
背筋に冷たい汗が流れる。
「俺を笑わせてみろ。」
「‥‥‥‥は?」
一瞬、何を言われたか理解出来なかったが
徐々に頭が回転し始める。
「‥笑わせる‥?」
「そうだ。俺も退屈しておったからな。」
至極、真面目な顔で淡々と告げる信長。
「それが出来ねばこれはやらん。」
ニヤリと、懐から紙切れを出す。
(‥何を言うかと思えば‥。)
政宗は笑みを零しながらも
先ほどとは違う、嫌な汗が
身体から吹き出すのを感じた。
「‥では、これから起こることは
二人の間で留めて頂きたい。」
「いいだろう。始めろ。」
「‥はっ。」
政宗は譲れないモノの為、
覚悟を決めた。