第6章 幸せの欠片
「政宗様、お待ちしておりました。」
家康の御殿に着くと
家臣の一人が恭しく頭を下げる。
「庭で家康様がお待ちです。」
「わかった。」
案内され、庭に出ると
家康が小鹿を相手に微笑んでいた。
「おい、家康。まさかお前は
名前を当てろなんて言わないよな。」
「‥は?」
「‥いや、なんでもねえ。」
「俺はわかりやすい勝負しかしません。」
面倒くさいけど、と家康は政宗に向き直る。
「そりゃあいい。」
砂利を蹴る音と同時に
家康が刀を振り抜く。
――キンッ
瞬時に刀を抜き、
家康の初太刀をなぎ払うと
政宗は間髪入れずに
鋭い一撃を放つ。
ヒュッ―
家康は一歩足を引き、刀を避け
間合いを取り直す。
「いい読みだな、家康。」
「‥そりゃあ、どうも。」
同時に間合いを詰め
刀と刀が競り合い、空気を震わせる。
政宗は楽しそうに刀を振るい、
相変わらず、迷いのない太刀筋に
家康は笑みを零した。
「‥なんだよ。」
「‥凛が政宗さんの元気がない
っていうから何かと思えば‥。」
別に大丈夫そうですね、と呟く。
「‥俺が?」
「戦がないから退屈なのかって。」
家康は刀身を眺めて、土埃を払う。
「退屈‥か。」
退屈な訳じゃない。
誰でも当たり前にうまい飯が食える、
末永く栄える豊かな国を作る。
その使命の為に生きてきた。
最近は戦もない、多いに結構だ。
それに、側には凛もいて
毎日がこれ以上ない幸福に満ちている。
「これが幸せボケって奴か‥。」
「‥?」
家康には聞き取れない程の声で
ポツリと呟き、フッと息を吐く。
「‥家康、早々に終わらせるぞ。」
カチャリ‥と音を立て、刀を握り直す。
「‥負けるつもりないですけど。」
(傷の一つくらい大目に見てよね‥。)
くだらない事に付き合ってあげてるんだし
と、政宗に刀の切っ先を向け直す。
「‥いざ。」
ジリっと砂利を踏みしめた。
「‥勝負!」
二人は一気に間合い詰める。
―――ガキィン!!
「‥っ!」
勝敗は一瞬で決した。
家康は弾かれた刀を拾い上げ、
はあ、と溜息をつく。
「‥はいこれ。次は光秀さんですよ。」
「光秀か‥タチが悪そうだな。」
政宗は渡された紙切れを見やると
ハッと何かに気づく。
「‥これは‥。」