第5章 恋敵は突然に
――ダンッ!という音が響き、
瞬時に身体を引いた信玄が
先ほどまで居た場所を貫くように
廊下の壁には刀が刺さっている。
(姫鶴一文字っ‥)
凛が刀が飛んできた方を見ると
そこには怒りを身体に纏ったような謙信が
ゆっくりとこちらに近づいてきていた。
「ほらみろ。すげぇ怒ってるじゃねーか。」
幸村は、やれやれと溜息を吐いた。
「おいおい、物騒だな謙信。」
姫に当たったらどうする?と
信玄は肩をすくませ、おどけてみせる。
「俺が目標を見誤るハズがないだろう。」
凛の目の前までくると、
姫鶴一文字を壁から引き抜く。
剣先を確かめるように眺め、
そのまま剣先を信玄に向ける。
「信玄、どこから刻まれたい?」
「俺は殺されるなら美女がいい。」
信玄は怯むことなく笑みを深める。
(き‥刻むって!)
初めて聞いた脅し文句に固まる凛。
ピリついた空気の中、トントンと
静かに肩を叩かられる。
「凛さん、ここから離れて。」
大きな戦が始まる‥と耳打ちする。
「‥えっ!なんでっ‥」
思わず声を上げた凛を
謙信が振り向き、微笑む。
「凛、少し待っていろ。」
邪魔者はすぐ始末する、そう告げる謙信の
二色の瞳はまったく笑っていない。
「佐助‥お前はいつまでそうしている?」
佐助は凛の肩に
手を置いていた事を思い出し、
バッと横に飛び避けた。
ゆっくりと懐からお手製の手裏剣を
取り出し、構える。
「俺は知らねーすよ。」
信玄の横に居た幸村は
そろっとその場から離れかけるが
迫りくる殺気に刀を抜く。
――キンッ
「‥どこへ行く?幸村」
ギリギリと刀が擦れる音が響いた。