第5章 恋敵は突然に
【お邪魔虫ルート】
「‥私は‥。」
皆の視線が一気に集まると、
胸を打つ鼓動が一段と速くなる。
「‥耳が‥くすぐったい‥です。」
カァっと頬に熱が集まるのが分かると
凛は手で顔を覆う。
佐助は一度、大きく頷くと
「この勝負、謙信様の勝利です!」
と、声高らかに宣言する。
「おー。真っ赤だな、お前。」
「もう!言わないで!」
(でも、謙信様が勝ってよかった。)
ホッと胸を撫で下ろし、
謙信を見やると、いつの間にか
集まっていた家臣達に
拍手喝さいを受けている。
その横には、悔しそうにしながらも
楽しかったーと微笑む小太郎も見える。
「ふふ。謙信様、嬉しそう。」
穏やかに微笑む謙信を見ると
凛は自然と頬が緩んでくる。
「どれどれ。」
えっ?と凛が顔を上げると同時に
耳にゾクゾクとした刺激が走る。
「‥っ、ひゃあ!」
突然のことに体勢が崩れ、
前のめりに転がりかけると
後ろから大きな掌が身体を
しっかりと支えた。
「‥おっと。姫、大丈夫かい?」
「し、信玄様っ!」
顔を真っ赤にして、あわあわと
耳を両手で塞ぐ凛。
「げっ!いつからそこに!」
隣の幸村も気づかなかったのか
凛と同じように目を丸くしている。
「俺の情報収集能力を甘く見るなよ、幸。」
ニヤっと笑うと、凛の身体を
ゆっくりと抱き起こす。
「姫の耳が弱点とはね。」
大人の余裕を思わせる微笑みで
愉しそうに口端を上げる信玄。
「凛が困ってるじゃねーすか。」
幸村は信玄を引き離そうと手を伸ばす。
「こら、幸。邪魔をするんじゃない。」
軍神の居ぬ間になんとやらと言うだろう?
と、凛を幸村から遠ざける。
「あ、あの‥信玄様?」
そろそろ離して頂いても?と
腕の中から信玄を見上げる。
「そんな顔をされると余計に離せない。」
ニッコリと微笑んだ。
―――瞬間、
「‥っ!お館様!」
咄嗟に叫ぶ、幸村の声。
遠くでヒュッ‥と風を切る音がした。