第5章 恋敵は突然に
「‥凛。」
謙信の唇が美しい弧を描き
ゆっくりと顔を近づける。
睫毛が触そうな距離に
凛はそっと瞼を閉じた。
「凛ー!見つけたー!」
ビクッと凛の肩が揺れると
謙信の眉がピクリと吊り上がる。
「‥誰だ、貴様。」
「‥小太郎!」
謙信の肩越しにその姿を確認した
凛はパッと身体を離す。
その行動が謙信を更に苛立たせた。
ゆっくりと振り返ると、そこには
髪の毛を頭の上で結い上げた
5歳程の男の子供がいる。
「謙信様、この子が先ほど話した
庭師さんの息子さんです。」
とっても可愛いらしいでしょう?と、
凛は謙信に微笑む。
「凛!今日こそ祝言を上げるぞ!」
小太郎と呼ばれた声の主は
謙信を押し退け、ピョンっと
凛に抱きつく。
(‥なんだと。)
小太郎は凛の膝の上で幸せそうに
頬をすり寄せ、微笑んでいる。
「ちょっ‥!小太郎!くすぐったいよ!」
あははっと楽しそうに微笑む凛。
蚊帳の外の謙信は凛の膝の上で
楽しそうに戯れる小太郎の襟を掴むと
小さな身体をヒョイっと持ち上げた。
「おい!何すんだ!離せ!」
ジタバタと暴れて見せるが
謙信の腕は微動打に動かない。
「謙信様、離してあげてください!」
まだ子供です、と凛が慌てて止める。
(子供だろうが男は男だ。)
謙信は暴れる小太郎をジッと見つめる。
「なんだよ!降ろせよ!」
小太郎も負けじと謙信を
ジッと睨み返した。
2人の間に見えない火花が散る。
いざ、開戦―――?