第3章 【R18】交差する想い
「‥さて、分かっているな。家康」
凛が出て行くのを横目で見ると
ニヤリと愉しげ笑う信長。
「お前が俺のモノに手を出すとはな。」
「‥凛はモノじゃない。」
家康は膝の上の拳を握りしめる。
語気には静かな怒りが篭っていた。
武功を上げて名を上げ、強くなる。
俺をモノのように扱ったやつらを見返す。
それだけの為に生きていた俺に
それだけが幸せではないと教えてくれた。
まだ弱くて、ボロボロになった時も
俺を誰よりも強いと言ってくれた。
「‥凛は渡しませんから。」
他の誰でもない。
俺が凛を守りたい。
凛が信長様を選んで
それで幸せになるなら
それでもいいと思っていた。
でも日に日に笑顔が減り、
いつの日からか傷も増えはじめた。
怒りと嫉妬で気が狂いそうだった。
だから俺はもう逃げない。
相手が誰だろうと。
初めて出来た大切な人を
この手で守りたい。
家康は心の中で誓いを立て
静かに信長を見据える。
「良い目をするようになった。」
家康の強い意志を持った瞳を見て、
信長は眩しそうに目を細めた。
「‥だが、やすやすと手に入れたモノを
くれてやるわけにはいかんな。」
奪ってみろ。
力も名誉も女も、全て。
この乱世ではいつ無くなるかも知れぬ。
だが、だからこそ尊い。
「話は終いだ。下がれ。」
家康は信長の意思を汲んだように
一度頷き、天守を後にした。
空は薄っすらと白く染まり始めていた。