第3章 【R18】交差する想い
「‥はあ。」
家康は安土城の廊下を歩きながら
何度目になるか分からない溜息をついた。
「‥おい。家康!」
ハッと顔を上げるとそこには
眉を寄せた政宗の顔があった。
「‥近いんですけど‥。」
「‥凛の様子はどうだ?」
ムッとしている家康を特に気にせず、
朝餉でも持って行ってやろうか?と
ソワソワしているのが見て取れた。
「‥傷は深くはないですけど。」
先程の凛の様子を思い出す。
「‥たぶん、寝てると思いますよ。」
政宗が料理を持って行けば、
きっと凛は喜ぶと予想できた。
でも、今はソッとしておいてやりたかった。
なにより心配かけまいと空元気に
振る舞うであろう凛を思うと
咄嗟に言葉を濁していた。
「‥そうか。なら仕方ないな。」
政宗はポリポリと頭を掻き、
起きたら教えろよ、と踵を返した。
(‥っていうか、何で知ってんの?)
情報早すぎでしょと、心の中で呟く家康。
「あ、家康。ここだったか。」
「おはようございます。家康様。」
振り向くと、そこには秀吉と三成の姿。
「‥おはようございます、秀吉さん。」
あえて三成を視界に入れず答える。
「凛様の様子は如何でしたか?」
家康のその様子に気づく事なく三成が
心配そうに尋ねると、
「‥なんでお前まで知ってんの?三成。」
家康の眉間の皺が一層深くなった。
「軍議もないのにお前が朝から安土城に
いるとなればだいたいそうだろう?」
すかさず横から秀吉が答える。
「‥傷は深くないので心配ないです。」
家康のその言葉に
秀吉と三成の表情が少し和らいだ。
「家康様が言われるなら安心ですね。」
三成がニッコリと微笑む。
「ああ。はやく笑顔が戻ればいいんだが。」
(相手が信長様ではな‥。)
秀吉の表情が、また少し曇った。
「私も早く凛様の笑顔が見たいです。
凛の笑顔は周りを明るく、暖かく
包んで下さいますから。」
「‥‥三成。本当に‥そうだな。」
恐らく、夜伽の事を知らないであろう三成に
秀吉が優しく微笑んだ。
(‥一度、御殿に戻るか。)
夕餉の後に凛ともう一度話そう。
家康は拳を固く握りしめた――