第13章 俺の相棒【刀剣乱舞コラボ】
‥―――。
静まり帰る宵闇に
微かに行灯の火が揺れる天守。
月の柔らかな光を浴びて
小さな椀に酒を落す。
「‥へし切長谷部。」
信長は一口、酒を煽る。
「‥宗三左文字。」
ゆっくりと目を閉じた。
「‥薬研藤四郎。」
小さく音を立てて徳利の横に椀を置く。
刀掛けに置かれた二本の刀を見やると
微かに届いた月の光が照らす。
へし切長谷部は俺が名付けた刀。
粗相をした茶坊主が隠れた棚ごと
圧し切った我が愛刀。
宗三左文字は、先の戦で今川義元に
勝利した際に戦利品として
茎表裏に自分の銘を打った。
懐から一本の短刀を出し、
ゆっくりと月に掲げる。
切れ味は鋭いが主人の腹は切らないという
逸話が気に入り、手に入れた薬研藤四郎。
数多の刀を有する信長が
常に側に置く刀。
「‥言の葉は必要もないだろう。」
鞘鳴りの音が響いて
薬研の刀身が月光に照らされる。
「切れるか、切れぬか。」
我が愛刀で在るならば、
その存在を力で示してみろ――
「そうだろう?薬研藤四郎。」
瞬間、月に影が映り込み
音もなく天守に降り立つ。
「気付かれてたか。」
「毎夜、ご苦労な事だな。」
信長が紅い瞳を細めて笑う。
「天守が偵察に丁度良いもんでな。」
短刀だから夜目が効くんだ、と
自分の目元をトントンと指で叩く。
「何か収穫はあったか?」
信長は再び椀に酒を注ぐ。
「‥まだ確信は、ねえが。」
嫌な感じだ‥、と薬研が眉間に皺を寄せる。
「俺っち達の気配か、凛の気配か」
それを察したのかも知れん、と
言葉を続ける。
「それで‥どうする?」
信長の瞳の紅が、より濃くなる。
「‥そりゃあ、な。」
薬研がニヤッと笑って見せる。
「切り捨てるまでだ。」
薬研の楽しげな声に、
信長はフッと笑みを溢した。
「さすがは、俺の刀よ。」
月が真上で鈍く輝く。
「近いうちに帰れそうだな。」
また報告はさせて貰うぜ、と
薬研がフッと姿を消す。
月を見上げた信長の前に、
桜の花弁がフワリと舞い降りた。