第3章 【R18】交差する想い
「‥ん。」
ピクリと凛の睫が揺れる。
ゆっくりと瞼が開かれ、ぼんやりと
凛の視界が明るくなる。
「‥いえ‥やす?」
口を開くと、切れた唇が
微かに痛んだ。
「‥薬。持ってきたから。」
それだけ告げると、顔を背ける。
「あ、ありがとう。」
重たい身体を起こし、なんとか
ぎこちない笑顔を作る凛。
(また心配かけちゃったな‥)
信長様と褥を共にするようになってから
傷がつく度に家康が薬を届けるのは
もはや日課になってきていた。
傷の一つ一つに家康が
丁寧に薬を塗り込んでいく。
「‥痛い?」
ポツリと家康が呟く。
身体の痛みはあまり感じなかった。
それよりも痛いのは‥――。
「‥うん。少し‥痛い。」
凛の口から溢れた答えが
身体の事を言っている訳ではないと、
家康は直感で理解した。
「‥嫌なら止めれば?」
(そんな辛そうな顔‥見たくない)
ここ最近は、鈴が鳴るような
可愛らしい笑い声も、
花が咲くような可憐な笑顔も
まったく見れていない。
あるのは、無理矢理作られた笑顔。
まるで心が無くなったかのように
想い耽り、今にも泣き出しそうな顔。
安土の武将達はもちろんのこと、
家臣達もその様子には気付いていた。
だが、凛は頑なに
その想いを抱え、手放そうとはしなかった。
ただひたすらに大事に守り続けていた。
「‥前も言ったハズだけど。」
何度も、何度も何度も。
俺だけじゃない、秀吉さんも
政宗さんも、光秀さんも、三成も。
皆、もう一度あんたの笑顔が
見たいだけなんだよ‥。
「‥いい加減、気付きなよ。」
どれだけひたすらに想っても、
信長様があんたを‥
愛してないって事に――
凛は窓の外を見つめたまま
答えようとはしなかった。
外は冷たい雨が降りはじめていた。