第3章 【R18】交差する想い
「‥凛。入るよ‥?」
スっと静かに襖が開く。
家康の御殿に信長から使いが寄越され、
傷に効く薬を持って来いと言われたのが
今朝の話。
(‥またか。)
大方、信長様に褥で荒く扱われて
傷が出来たんだろうと容易に想像出来た。
「用意が出来たら向かう。」
そう言い伝えてから数刻。
家康は凛の部屋を訪れていた。
「‥寝てるの?」
そこには布団にも入らず、
窓辺で壁に身体を預け
寝息を立てている凛の姿があった。
家康は襖を閉め、音を立てぬよう
静かに近付く。
ずっと泣いていたのか
目の縁は赤く腫れて、
頬には涙の筋が残っている。
そのまま視線を落とすと、
唇や首筋、鎖骨、身体の至る所に
傷が残っていた。
「‥はあ。」
家康は小さく溜息をついた。
(‥ほんと、やってらんない。)
誰にでも優しく、明るく
まるで花が咲くように微笑む凛。
戦を嫌い、誰かが傷つくのを
自分のことように悲しむ。
(きっと俺は‥)
家康の御殿に凛が預けられていた時
何度も、何度も冷たく突き放した。
それでも仲良くなりたいと、
何度も、何度も笑顔を向けてきて
その笑顔に自然と惹かれていた。
だから、凛のこんな姿は見たくない。
(俺なら‥いくらだって甘やかすのに。)
でも、自分の想いは伝えていない。
それは凛の想う人が
自分ではないとわかっているから。
なぜ、自分ではないのか。
なぜ、信長様なのか。
なぜ、傷付けられ、愛されず‥
それでも‥あの人なのか。
(‥理解できない。)
抱きしめたい気持ちを抑え、
ソッと凛の頬に手を添えた。