第12章 二人の宝物 三章
凛が佐助にお茶をだし、
世間話に華を咲かせている頃―――
「父上、あれはなあに?」
「あれは向日葵の花だ。」
キョロキョロと楽しそうに歩く息子を
眩しそうに見つめる光秀。
(たまには良いかも知れんな。)
こんなにも自分の子は愛おしいものかと
自分で、自分が可笑しくなる程だ。
凛と出会って、感じた事のない思いや
自分の中に眠っていた思い、色々な感情に
振り回され煩わしく感じる時もあったが
それらが今では、全て愛おしい。
「父上、あれはー?」
「あれは風車だ。」
春の心地よい風に吹かれ
綺麗な羽がカラカラと音を立て回っている。
「一つ貰おう。」
「まいど。」
浅葱色の綺麗な風車を光慶に渡すと
キャーと嬉しそうに声を上げて笑った。
「ありあとう!」
「おや、御礼が言えるのか。」
クククッと釣られたように笑い、
そっと頭を撫でてやった。
「おー。ちゃんと父ちゃんやってるな。」
感心、感心と聞きなれた声が聞こえる。
「あっ!ひでおし!」
「光慶、元気にしてたか?」
大きくなったなあ、と秀吉は
駆け寄ってきた光慶を抱き上げる。
「今日は非番だったか?」
「いや?仕事中だが?」
涼し気な顔で答える光秀に
秀吉は大きくため息を吐いた。
「お前なあ‥むぐっ!」
小言を言いかけた秀吉の口を
光慶の小さな手のひらが覆った。
「父上をいじめたらダメよ!」
プクっと頬を膨らませて必死に
秀吉の口を押さえるその姿に
光秀と秀吉は同時に吹き出した。
「クククッ、それは酷というものだ。」
こいつは小言を言わねば死んでしまう、と
ヒョイと光慶を秀吉から引き離す。
「いい息子を持ったな、光秀。」
ハハハ、と笑う秀吉はどこか嬉しそうだ。
「光慶を危ない目に合わせるなよ。」
凛が悲しむからな、と
結局小言を言い残して秀吉は
人混みに紛れていった。
「‥言われずとも。」
独り言のように呟いた声は
町の喧騒に消えていった。