第12章 二人の宝物 三章
「父上!つぎはどこにいくの?」
二人で昼餉も済ませて、
穏やかな午後の町をゆったりと歩く。
隠密の仕事柄、御殿を開ける事も多く
ましてや二人で出掛ける事など無かった。
光慶は余程嬉しいのか
瞳をキラキラと輝かせて
光秀の手を握り楽しそうに
隣を歩いている。
「‥そうだな。」
視察と言っても以前問題のあった箇所が
指示通りに改善されているかを確認し
それを御館様に報告するだけだった。
(もう終いといえば終いだが‥)
あと少し、喜ぶ顔が見たいとも思う。
チラリと横目で光慶を見やると
少し眠そうに目を擦っていた。
「眠いか?」
光慶はハッとして首を横に振る。
「みつ、ねむくないよ!」
ちょっとだけ‥ねむいけど‥と
重くなる瞼を手のひらで押さえる。
クククッと笑みを零すと、
光秀はその小さな身体を抱き上げた。
「いつまで起きていられるか見物だな。」
「みつ‥ねない。」
ポンポンと優しく頭を撫でると
光慶はすぐに光秀の肩に頭を預けた。
「まだ‥あしょぶ‥。」
「ああ、そうだな。」
光秀がゆっくりと歩き出すと
心地よい揺れに光慶はすぐ眠ってしまった。
「他愛のない事だ。」
こんなにも無条件に自分を信じてくれる
存在がこの世にいるのかと疑いたくなる。
そんな物好きは一人も居なかった。
皆が揃って疑いの目を向けてきた。
そんな自分を‥――――
「ああ、もう一人居たな。」
馬鹿みたいに素直で
馬鹿みたいにお人好しで
馬鹿みたいに愛してくれる。
「凛‥。」
やわらかな風が髪を一房
拾い上げると、何かに導かれるように
光秀は振り返った。
「光秀さんっ‥と、あらら。」
光慶寝ちゃったんですね、と
凛は顔を綻ばせた。
「ああ、この通りだ。」
それにつられるように光秀が笑う。
「あ、光慶よだれ垂らしてる!」
「誰かの寝顔に似ているな。」
クククッと喉を鳴らすと
心地よい声が返ってくる。
「わ、私はよだれ垂らさないですよ?」
日の落ちかけた町をゆっくりと歩く
穏やかで幸せに溢れた時間。
「今度、3人でお出掛けしましょうね。」
「そうだな。」
右腕に抱く光慶の重みと、
凛と手を繋ぐ左手の温もりは
何にも代え難い光秀の宝だ。
光慶の手の風車がクルクルと
柔らかい風に吹かれていった。