第12章 二人の宝物 三章
「ふふっ」
頼まれた物も無事に手に入れて
意気揚々と通りを歩く徳姫。
背負っているのは、
産まれてくる自分の弟妹の為の反物。
手に抱えているのは大好きな母が
大好きな父の為に飾る綺麗な花。
(喜んでくれるかなあ。)
何度も思い描いた両親の笑顔。
足取りも軽く、重さも苦にならない。
この角を曲がれば、あとは
安土城まで一本道だ。
――――ドンッ
「きゃあ!」
角を曲がった瞬間、何かにぶつかり
徳姫は反動で尻もちをついた。
「‥痛ったい。」
転んだ拍子に手から離れた
大事な花が地面に転がっている。
「痛ってえな!このガキ!」
大きな声に驚いた徳姫が
ハッと顔を上げると
そこには見るからに野蛮気な
浪人の男の姿があった。
「おはな!」
浪人に足元に落ちてしまった花束を
拾おうと手を伸ばす徳姫の前に
浪人が立ちはだかる。
「おいっ、人にぶつかっておきながら
花の心配たあ、随分じゃねえか。」
「‥ごめんなさい。」
産まれて初めて聞く、怒声に
徳姫はグッと涙を堪えて呟く。
「聞こえねーなあ。」
ニヤニヤと調子に乗り始める浪人を
キッと睨みつけて徳姫は拳を握った。
「ごめんなさい!」
お花、返して!と、
勇気を振り絞って声を出す。
瞬間、浪人の足が花束の上に乗り
グシャっという音が聞こえた。
「‥あっ!」
「ああ、すまねえなあ。」
踏んじまったよ、残念だったなあと
徳姫の頭の上で笑う声がする。
徳姫は顔も上げず、呆然と
踏みつけられた花束を見つめた。
「‥だいじな‥お花‥。」
大好きな父上と母上に
喜んで貰おうと選んだ花。
綺麗な赤い花びらは
バラバラになってしまっている。
「‥う、ひっく‥。」
徳姫の大きな瞳から、
ポロポロと涙が溢れ出し
小さな拳をギュッと握り締めた。
「あ?なに泣いてんだ?」
これだからガキは‥と、
嘲るような笑い声が聞こえる。
(泣いちゃだめ‥泣いちゃ‥)
堪らえようとしても
次から次に溢れる涙は
徳姫の頬を濡らしていく。
「おいっ、なんとか言え‥うぐっ!!」
「どうした?もう喋らないのか‥?」