第12章 二人の宝物 三章
徳姫が到着する数刻前――
「遅いな‥。」
「様子を見て来ましょうか。」
作戦通りに花屋の陰に待機する
秀吉と三成は、焦燥に駆られ
今にも探しに行きそうな様子で
ソワソワと徳姫を待っていた。
「光秀が付いているから心配はないが‥。」
(しかし、万が一の可能性も‥)
「そうですね。」
ふと、辺りを見渡した三成が
ある人物に目を止める。
「秀吉様、あの方は‥」
「ん?どれだ?」
三成の視線の先には一人の露店商人。
城下町の入り口に女性物の商品を並べ
かつて徳姫の母である凛と
出会った時と同じ様に店を広げる
武田信玄の腹心、真田幸村。
「‥っ!あいつ!」
「どうされますか?」
秀吉は眉間に皺を寄せ思考を巡らす。
(害を成すものは即刻排除‥。)
「三成、政宗達に伝令を。」
あいつが居るとなると信玄達が
近くに居る可能性が高い‥と
小声で耳打ちする。
「かしこまりました。」
「俺は、あいつと話してくる。」
何度か徳姫と会った事がある幸村が居れば
使いの邪魔になりかねないと判断した秀吉は
三成を見送ると足早に幸村の元に向かった。
「あー、メンドクセー。」
昨日、凛に会いに行った佐助が
徳姫が使いに行くという情報を持ち帰ると
いつも通り謙信と、信玄が
安土に向かうと言い出した。
凛の事はさておき、敵将の娘でもある
徳姫にさほど興味のない幸村は
半ば拉致されるようにつれて来られると、
主君である信玄から
『幸、暇ならお金を稼いで来なさい。』と
道具一式を渡され、今に至る。
「おい、真田幸村。」
「‥‥げ。」
(だから、嫌だったんだ‥)
思わず隠して置いた刀を
取ろうとする幸村を
秀吉が笑顔で制止する。
「まあ待て。騒ぎを起こすつもりはない。」
こっちにも事情があってな、と
人差し指を口元に立てる。
「‥あ?」
三成が伝令を済まし、秀吉の元に戻ると
何故かそこには露店商もとい幸村の姿。
「秀吉様、一体これは‥。」
いつもの穏やかな表情から
一瞬で険しい表情になる三成に
秀吉が成り行きを話す。
「なるほど。一時休戦という事ですね。」
「お前らホント、凛が絡むと
とたんに甘くなるのな。」
溜息混じりに幸村が呟くと
店先を見ていた秀吉が、
声を潜めて振り向いた。
「来たぞ!」