第12章 二人の宝物 三章
「徳姫様、どうかお気をつけて。」
「いってらっしゃいませ。」
恭しく頭を下げる家臣達に
見送られ、意気揚々と城門を
くぐり抜けるとドキドキと胸が高まる。
いつもは母と歩く道。
今日は一人きり。
徳姫は、そろそろと振り返りかけるが
ぐっと堪えて、第一歩を踏み出した。
(だいじょうぶ‥だいじょうぶ。)
そうして、ゆっくりと
歩き出した徳姫の後ろ姿を
気づかれぬよう光秀が見つめていた。
瞬間、優しげに見つめていた瞳を
細めて周りを注意深く見渡す。
フッと気配を消し
徳姫により近い木陰に潜む
人影の背後に付くと
首元に懐刀をヒヤリと当てた。
「‥なにをしている?」
冷ややかに、愉しげに光秀が
問いかけると忍者らしい人影は
ゆっくりと両手を上げた。
「‥また偵察か?佐助。」
「やはりバレちゃいましたか。」
フッと笑う気配がして、光秀が刀を収めると
口元を覆う布を下ろして佐助が振り返る。
「徳さんがお使いに行くと知って
居ても立ってもいられず。」
あくまで淡々と告げる佐助に
光秀がクククッと喉を鳴らす。
「どうやって忍び込んだか興味深いが。」
お前がいるなら他の奴らもおるのだろう、と
視線で徳姫を追う。
「ええ、言い出したら聞かない人達なので。」
同じ様に徳姫を追い、フッと微笑む。
「まあいい。あいつらが何とかするだろう。」
ではな。と愉しげに喉を鳴らして
光秀はフッと姿を消した。
「‥しまった。」
光秀が去って暫く立ち尽くしていた佐助は
サイン貰い忘れた‥、と呟くと
木の葉を舞いあげながら姿を消した。
そんな事は、露知らず徳姫は
城下までの道をどんどん進む。
歩いている内に、少し寂しかった気持ちも
持ち直し足取りも軽やかだ。
(私は父上と母上の自慢の娘!)
ふふんと顔を上げると、
城下の町並みが見えてきた。
信長の楽市楽座の政策により、
町は人に溢れ、賑わいでいる。
威勢よく呼び込みをする店や、
沿道に並ぶ露天商。
活気溢れる人の波に押されながら
徳姫は凛の言付けを思い出す。
『お花屋さんで父上のお部屋に飾る
お花を買ってきてね。』
いつも凛が季節の花を選び
信長の部屋に生けていたお花達。
信長の喜ぶ顔を思い出浮かべながら
目的地を目指して歩みを進める。
「着いた!」