第12章 二人の宝物 三章
「どうした?」
信長は脇息にゆったりともたれ、
襖の傍に佇む凛を見やる。
「‥いえ、なんでも。」
ハッとしたように振り返り、
信長の傍に歩み寄る。
「徳はどうしておる?」
隣に座る凛の髪を梳きながら
愉しげに笑みを零す信長。
「徳なら、お使いに行くって
すごく張り切って準備を、」
ああ、丁度いい所に‥と
凛がふわりと微笑む。
「父上、母上?」
視線の先にひょこっと顔を覗かせたのは
凛のように可愛いらしくありながら、
信長の強い意志を宿すように切れ長の
綺麗な瞳を持つ魔王の愛娘。
「来たか。徳、こちらに来い。」
信長がフッと微笑んで見せると
徳姫はちょこちょこと歩み寄る。
「父上、徳は今から母上にたのまれた
おつかいに、いってまいります。」
お出掛け用の着物に身を包み、
黒く綺麗に伸ばした髪は
邪魔にならない様結い上げてもらい
首には小さな小銭入れを下げて
ふふん、と自慢気に微笑む徳姫。
「そうか。気をつけていけ」
「知らない人について行っては駄目よ?」
お金は持った?それから‥と
心配そうに声を掛ける凛に
徳姫はふんと胸を張った。
「母上、徳はもうすぐよんさいです。」
お使いなど他愛もありません、と
微笑む徳姫は誇らしげだ。
「では、いってきます!」
バイバイと小さく手を振り
徳姫は広間から出ていった。
「気をつけてね!」
タタタタっと小走りに廊下を駆ける
その音が段々と小さくなっていく。
「‥‥。」
「‥行っちゃいましたね。」
「‥‥。」
「‥信長様?」
どこか遠くを見つめていた信長が
ハッとしたように振り向く。
「‥ああ。」
「‥心配ですか?」
信長の顔を覗き込むように
見上げると、そのまま包み込む様に
抱きしめられる。
「‥心配などしておらん。」
「‥嘘つき。」
クスクスと凛が微笑むと
少しムッとしたような信長が
凛を横抱きにして立ち上がる。
「きゃっ!‥の、信長様?」
「黙れ。」
落ちないように信長の首元に腕を回すと
信長の耳が微かに赤くなっていた。
(ふふ‥照れてる。)
「徳が戻るまで二人で待つとしよう。」
ゆっくりとな‥、と妖しく笑う信長は
天守へと歩き出した。