第11章 二人の宝物 二章
気晴らしに、散歩も兼ねて
城下をブラブラと歩く。
今日も安土城下は賑わい、
あちこちから威勢のいい声が聞こえ
活気に満ち溢れている。
そんないつも通りの城下を見て
騒いでいた気持ちも少しずつ
落ち着いてきた。
「凛ちゃん!いらっしゃい!」
馴染みの反物屋の店主が
ニコニコと笑顔で迎えてくれる。
「おじさん、こんにちわ!」
「今日は色々仕入れてきたからね!」
ゆっくりしてってくれ、と
新しい反物達を広げて見せてくれた。
「わあ、可愛い!」
目の前に、柔らかい生地と
優しい色合いの反物が色とりどりに並ぶ。
その優しい色合いを見つめて、
まだ見ぬ二人の子供に思いを馳せた。
「おじさん、これ頂きます。」
「あいよ。ありがとね。」
一番に目に止まった反物を
丁寧に包んでもらうと凛は
それを受け取り、ふわりと微笑んだ。
表に出ると空には夕日が輝き始め、
昼間の暑さが少しだけ和らいだ城下を
胸に大事そうに反物を抱えて歩く。
凛はチラリと抱えた包みを見て
ふふっと笑みを溢した。
―ドンッ
「‥きゃっ!」
反物に気を取られていたせいか
前から歩いていた人と
すれ違い様にぶつかってしまった。
「痛ってえな!」
「ご、ごめんなさい!」
凛が慌てて顔を上げると、
一瞬目を見開いた男が、
ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
「おい、謝って済むと思ってんのか?」
ニヤニヤとぶつかった所を擦りながら
男が凛と距離を詰める。
「‥あ、あの。」
嫌な汗が背中を伝い、逃げなきゃと
頭の中で警鐘が鳴る。
「看病してくれよ。」
と、男が凛に向かって
手を伸ばした。
「おい、触れるんじゃない。」
看病なら俺がしてやる、と
聞きなれた声と共に
凛の前に大きな背中が現れる。
「秀吉さん‥。」
ほっと凛の緊張が解ける。
「なんだお前!どけ!」
苛立ったように拳を振り上げる男を
睨み付け、一瞬で地に這わす。
「次は無いぞ。二度と近づくな。」
パンパンと手を払い、地面に
伸びている男を一瞥すると
秀吉がゆっくりと振り返る。
「怪我はないか?」
「‥うん。ありがとう。」
と、凛が笑顔を見せると
秀吉もほっとした様に微笑んだ。