第10章 Enjoy Summer
その頃、浜辺では
光秀が交差させた木の土台の上に
佐助特製の金網を乗せ、
その下で焚き木の準備をしていた。
「光秀、これはなんだ?」
信長が興味深そうに覗きこむ。
「これは"ばーべきゅー"です。」
「ばーべきゅー?」
初めて聞く言葉に俄然興味が湧いたのか
金網を手に取り、楽しそうに目を細める。
「その網の上で魚などを焼くようで。」
「ほう。なかなか良い趣向ではないか。」
どうせ佐助の進言なのであろう?と、
信長は鼻を鳴らし網を戻した。
「なになさってるんですか?」
いつの間にか浜に上がった凛が
手ぬぐいで髪の毛を拭きながら
二人の間に顔を出す。
「おや、凛。」
「ばーべきゅーだ。」
信長が、さも自慢気に鼻を鳴らすと
光秀はクククッと喉を鳴らした。
「わっ!本当だ、凄いですね!」
懐かしい~、と嬉しそうに頬を緩めた。
「時に、凛。」
怪しげな笑みを浮かべて光秀が
凛に声を掛ける。
「今日は随分と色香があるな。」
「そ、そうですか?」
自然と赤くなる頬を手ぬぐいで隠す。
「ああ、いつもは幼子のようだからな。」
クククッと光秀が楽しげに喉を鳴らす。
「もう!私は大人です!」
「そう言ってやるな、光秀。」
なかなか似合うておる、と
信長は凛を一瞥した。
急に熱の灯った瞳に見つめられ、
凛の胸がドキドキと
音を立て始める。
「御館様も趣味が悪い。」
クククッと光秀が喉を鳴らすと、
信長は鼻を鳴らし口端を上げた。
「それは貴様もであろう、光秀。」
おやおや、と肩を竦めて見せると
周りの空気がピンっと張り詰めた。
「あ、あの‥」
突然、一変した空気感。
戸惑いながらも、凛が
涼しげに牽制し合う二人に
どう声を掛けようかと悩んでいると、
遠くから穏やかな声が聞こえた。
「おや、姫じゃないか。」