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【イケメン戦国】時をかける妄想~

第9章 囲いの鳥


「‥邪魔するぞ。」


「いらっしゃい‥っ!」

客も途絶え始めた夕刻、
店に入ってきたその姿に涼太は
机を拭いていた手を止める。


「‥これはこれは、謙信様。」
謙信の放つ威圧感に押されながらも
ゆっくりと息を吸い、表情を創る。

「お前に名を呼ばれる所以はない。」


「‥それでは、何用で?」
涼太は背中にヒヤリと
冷たい汗が流れていくのを感じる。

「わかっておるだろう。」
暗く細められた二色の瞳が、
忌々しいと言わんばかりに怒りを宿す。




自分に向けられた明らかな怒りに
涼太はグッと拳を握り、
意を決したように口を開く。

「‥僕は凛ちゃんの事がっ、」

ヒュっと空気を割く音と共に、
涼太の目の前で姫鶴一文字の刃が
ギラギラと光を放つ。

「‥っ」
声も出せず、青ざめていく表情に
向って謙信が怒りを露わにする。


「凛の名を口にするな。」
二度目は無い‥、と
低く、押し殺したような声に
涼太の身体が小さく震えだす。



「謙信様、刀を収めてください。」

突然、聞こえた声に
涼太の身体がビクリと跳ねる。


「‥やはり追ってきたか。」
背後に立つ佐助を振り向きもせず、
ゆっくりと涼太から刃先を離す。


「‥二度と凛に近づくな。」
さもなくば、容赦はしない‥と
音も立てずに刀を鞘に収める。


その場にへたり込む涼太を
冷えきった瞳で一瞥すると、
入り口に佇む佐助の横をすり抜ける。

「‥口出しは無用だ。」

「‥ええ。しませんよ。」
しても無駄でしょうから、と
去っていく背中を静かに見送る。



「‥涼太さん、大丈夫ですか?」

謙信の姿が見えなくなると
佐助は涼太に歩み寄り手を差し伸べる。

涼太は床に座りこんだまま、
青ざめた表情のまま呟く。

「‥あいつは‥異常だ‥。」





「‥そうですね。」

佐助は差し伸べた手を上げ、
眼鏡の端を持ち上げる。

お邪魔しました、と深々と頭を下げ
佐助は音も無く姿を消した。



「愛‥か。」

残された涼太は、ゆっくりと立ち上がり
まだ少し震える足に力を込める。

「‥深すぎる執念だな。」
フッとため息混じりの息をつき、
凛の笑顔を思い出す。


見つめるその先にある夕日が沈み、
ゆっくりと夜の闇が広がっていった。


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