第9章 囲いの鳥
月の光が差し込むと、
窓の格子の影が部屋に浮かぶ。
凛は、ぼんやりと
その影を眺めていた。
カチャリと鍵の開く音がして
振り返れば、愛しい二色の瞳が
凛を捉えている。
「お帰りなさい。」
「ああ、ただいま。」
謙信は顔を綻ばせると、
凛の横に腰を降ろす。
「‥不自由はないか?」
謙信が離れている間だけ
部屋には鍵が掛かり、
共にいる間は自由に出来る。
コクンと小さく頷くと、
凛はふふっと微笑んだ。
「‥不思議です。」
まるで鳥籠のようなこの部屋で
窮屈な筈なのに、不思議と
心地良いのは愛故だろうか。
「私、謙信様に染まってるんですね。」
猟奇的なこの愛の形に、
むせ返るほどの愛に、
この人が居なければ生きられないと
思う程の互いへの執着。
「凛、愛している。」
誰かに奪われるくらいなら、
いっそこの手で壊してしまいたい。
いつ自分が死ぬかも知れない乱世で
片時も離れていたくない。
そっと凛を抱き寄せ、
その腕に力を込めると
ふわりと微笑むのを感じた。
「‥私も、愛しています。」
どちらからともなく、
引き合うように唇を重ねる。
囁く愛は、まるで鎖。
共に落ちていく深い愛。
「‥っあ、謙信様っ」
「‥凛。」
苦しい程の深い口づけに
全ての意識を持っていかれ、
他に何も考えれない程に
お互いの熱を確かめ合う。
格子の影が二人に重なる。
囚われたのは二人。
深く広がる闇に、
深くなりすぎた愛は
ずるずると引き込まれていく。
「‥永遠に、愛している。」
また一つ、鎖が絡まる。
落ちていこう、二人で。
「‥ずっと一緒です。」
愛に囚われた二人は、
もう逃げ出すことも無い。
囲われたこの空間でしか
息をする事も出来ない。
どちらかの心臓が止まれば、
もう一人の心臓も止まる。
それ程の愛の執着。
死でさえも別かつことの出来ない
執着は執念となり、絡みついた。
「‥永遠に共に‥。」
end.