第9章 囲いの鳥
「‥出してっ!出してくださいっ!」
誰も居ない廊下に凛の声が響く。
朝の日差しに目を覚ますと、
部屋の入り口と窓枠には
格子が張り巡らされていた。
「‥なんで‥。」
力無く、その場に座り込む凛。
分かるのは、ただ一つ
まるで鳥籠のようなこの部屋に
囚われたという事。
「‥起きたか。」
その声に凛は
ハッと顔を上げる。
「‥っ!謙信様っ‥。」
格子の間から手を差し伸べ
スルリと凛の頬を撫でる。
その優しい触れ方に、
零れそうになる涙を堪えた。
「‥これは、謙信様が‥?」
震えそうになる声を振り絞り、
真っ直ぐに謙信を見つめる。
「‥そうだ。」
どこか苦しげに眉根を寄せる謙信。
「‥どうして、ですか?」
「触れさせぬ為だ。」
お前の美しい羽を手折ってでも
囲って、閉じ込めて‥
誰にも触れさせぬように
誰にも奪われぬように。
嫉妬の波に呑まれる前に。
「‥夜には戻る。」
いい子で待っていろ、と謙信は
凛の頬を伝う涙を掬うと
羽織を翻し、去っていく。
「‥謙信様‥。」
優しく触れる手は酷く冷たく、
悲しい瞳に見つめられると
胸が押しつぶされそうだ。
こんなにも愛しているのに。
私には、あなたしか居ないのに。
その異質な束縛さえも
愛の形だと思える程に――
愛しているのに。
「‥伝わらないの?」
凛は消え入りそうな声で
呟くと、震える身体を抱きしめる。
一人では広すぎるこの部屋で
静かに涙が頬を伝った。