第9章 囲いの鳥
「‥俺ね、凛ちゃんの事‥」
スッと真っ直ぐに見つめられると
凛の鼓動が大きく跳ねる。
「‥好きなんだ。」
瞬間、時が止まるような感覚に
ゾクリと背中が粟立つ。
「‥あ、の‥。」
どう言葉を紡げばいいのかと
真っ白な頭を必死に動かそうとする。
「‥俺は謙信様みたいに君を
束縛したりしない。」
追い立てるように続く言葉に
思考が追いつかない。
私には心から愛する人がいる。
愛故の束縛に悩んだ事はあれど
息苦しさを感じた事はない。
それが謙信様なりの愛情表現だから。
(断らないとっ‥。)
上手く、傷つけずに‥。
考えようとすればするほど
言葉が出てこない。
「‥凛ちゃん。」
熱の灯った瞳で見つめられると
心臓が嫌な音を立て、
無意識に凛は一歩、足を引いた。
「凛さん。」
よく通るその声にハッと
振り向くと、いつからいたのか
眼鏡を押し上げる佐助が見えた。
「帰りが遅いから迎えに来た。」
謙信様が今にも暴れだしそうなんだ、と
佐助は不敵な笑みを浮かべた。
「‥またおいで、凛ちゃん。」
返事はその時でいいから、と
涼太はいつもの笑顔を向けていた。
「‥御馳走様でした。」
佐助に連れられ、重たい足取りで
城までの道のりを並んで歩く。
「驚いたね。」
「‥え?」
ビクッと肩を震わせ佐助を
見上げると、いつも通りの
飄々とした顔がある。
「大丈夫。謙信様には言わないよ。」
あそこの団子、俺も好きだからと
佐助は笑ってみせる。
「‥断らなきゃと思ったの。」
俯きながら、ポツリと呟く。
「‥でも上手く言葉にならなくて。」
「うん。わかってる。」
凛さんは優しいから、と
答える佐助の優しい声色に
凛は自分の不甲斐なさに
涙が零れそうになる。
「落ち着いたら一緒に行こう。」
涼太さんもわかってる筈だよ、と
励ますように肩をポンポンと叩いた。
「‥ありがとう、佐助くん。」
「いいんだ。」
(早く謙信様のもとに帰ろう。)
どこまでも高い空を見上げると、
何故だか愛してやまない人を
抱きしめたくなった。