第2章 どこまでも
長い廊下を足早に歩く。
表情にこそ出ていないが
家康は期待と不安とが入り混じったような
いかようにも形容し難い感情で
どうにかなりそうだった。
(‥凛‥)
ふと、家康の足が止まる。
目の前に普段、足を運ぶことのない
台所の暖簾が垂れ下がっている。
その奥からは広間に次々と
運ばれている家康の好物達のニオイ。
暖簾をくぐり、顔を覗かせる。
家康は自分でも自覚出来るほど
心臓の音が大きく、早く鳴っていた。
そこには、夢にまで見た愛しい人が
楽しそうに腕をふるっている姿。
「あんた、なにしてるの‥?」
(やっと見つけた‥)
中に入り、掠れた声で問う。
「え?‥い、家康!」
一瞬驚いた表情をしたものの、
すぐに綻んだ笑顔が見えた。
「お仕事お疲れ様!あのねっ‥」
言い終わるより早く、家康が
凛を抱きしめた。
「‥あんたって、ほんとに‥」
(‥凛のニオイだ。)
「い、家康?」
正面からすっぽりと家康に
包まれた凛は
久々に感じる家康の温かい体温に
心臓がドキドキと高鳴り始めた。
「あ、あのね‥本当は‥んっ」
凛の言葉を遮るように
家康が口づけを落とす。
「ん‥はっ‥あ」
息つく暇も与えられない程に
家康は凛を求めた。
(‥やばい‥止まらない)
何度も、何度も凛の唇を求め、
その潤んだ瞳に煽られていく。
「あっ‥い、いえや‥す‥んっ」
その声も、表情も温もりも全てが
家康を満たしていく。
「凛‥。」
ようやく唇を離したものの、
抱きしめる腕の力は抜かない。
「あ、あのね!本当は
びっくりさせようと思ってたんだけど‥」
凛は、1つずつ説明していった。
凛も家康に会えなくて寂しかった事。
でも仕事の邪魔にはなりたくない事。
信長様に相談したら宴を開く事になった事。
「‥だからね、家康の好きなご飯を
いっぱい作って、息抜きになればと思って‥」
そこまで言い切るとチラリと
家康の表情を仰ぎ見る。
「だ‥ダメだった‥?」