第2章 どこまでも
御殿に戻ってみたが、そこに
凛の姿は無かった。
安土城に戻りがてら、城下の
凛の行きそうな店にも行った。
(‥会いたい)
会って、抱きしめて、口づけて‥
心に空いた穴を埋めてほしい。
城下の街は夕日に照らされ
茜色に染まり始めていた。
「‥凛‥。」
家康の声は空に消えていった。
安土城に戻る頃には日も暮れ
広間には宴の準備が進められていた。
「おう!家康!遅かったな!」
女中が忙しく準備をしているのを
手伝っているのか、邪魔しているのか
膳を無造作に並べていた政宗が
家康に気づき、傍に歩み寄る。
「‥政宗さん。料理はいいんですか?」
いつも宴といえば政宗の料理が
振る舞われていたが今日は
台所に立っている様子はない。
「ああ、今日はいいんだ。」
ニヤリと政宗が口端を上げる。
「‥そうですか。」
どうでもいい、と言わんげに
家康はプイっと顔を逸らす。
運ばれてきた料理の香りに
フワリと鼻腔をくすぐられる。
数種類の焼き魚、根菜の煮しめ、
ごま塩のおむすび、漬物。
それと、豆腐の入った真っ赤な汁。
(‥なんなの?)
次々と運ばれてくる料理は、どれも
家康の大好物ばかりだ。
秀吉が家康の為と言っていたのは
これのことだろうかと考える。
(あの赤い汁は‥何?)
見るからに辛そうだけどいいニオイ。
あまり嗅いだことのないニオイ。
そう、まるで異国の料理のようで‥。
その瞬間、家康がハッと顔をあげ
思い立ったように踵を返す。
丁度、襖が開け入ってきた
人影とぶつかりそうになったが、
「黙れ、三成。」
横をすり抜け、廊下にでる。
「まだ何も申し上げてませんが‥。」
後ろから聞こえる三成の声は
もはや家康には聞こえていなかった。