第2章 どこまでも
「何をしてらっしゃるのでしょう?」
一人佇み、床を見つめる家康を見つけ、
歩みを止めて立ち止まる。
「ん?どうした三成。」
書簡を抱え、秀吉が振り返る。
「秀吉様、家康様の抜け殻があちらに‥」
同じように書簡を抱えた三成が
視線で秀吉を促す。
「抜け殻‥?」
秀吉が視線を移すと、空虚を見つめ
なにかを堪えている様にも見える家康がいた。
ここ何日か安土城に籠もっている家康は
おそらく御殿にも帰れていない。
(となると、凛にも会えていない‥のか?)
「三成‥そっとしておいてや‥れ?」
秀吉が三成に向き直り、言い終わるより早く
三成は家康の元に向かっていった。
「あっ、おい!三成!」
呼び止めようと手を伸ばしかけ、
その拍子に手に抱えていた書簡が
床に散らばり、秀吉は大きく溜息をついた。
「機嫌悪いぞ、あいつ‥。」
「家康様、いかがされましたか?」
三成が心配そうに顔を覗き込む。
瞬間、家康の肩がピクリと震える。
「家康様、どこかお身体の具合でも‥」
「五月蝿い三成。悪いのはお前のその脳天気な頭だろ。」
三成は家康の言葉を聞き、
ニッコリと微笑んだ。
「さすが家康様。私の言葉を先回りして
頭の心配をしてくださるとはお優しいですね!」
体調もよさそうで安心致しました、と
三成はニコニコしている。
「おーい、三成行くぞー」
後ろから秀吉の声がする。
「家康!今日の宴は
お前の為でもあるんだからな。」
「では、家康様。また後ほど。」
そういって、二人は去っていく。
(俺の為‥?)
またフツフツ怒りが募る。
(凛に会えないんじゃ意味ない‥)
家康は踵返し、歩き始めた。