第7章 二人の宝物
「‥ごめんね、家康。」
次の日、朝から
コンコンと咳をする凛。
どうやら風邪を引いたらしく
熱はさほど高くないが、
大事を取って一日寝ていてと
家康に布団に押し込まれた。
「気にしないでゆっくり休んで。」
何かあったらすぐ呼んで、と
水と薬を枕元に置く。
「桔梗に移ってないといいけど‥。」
心配そうにする凛の頭を
家康はソッと撫でる。
「凛は自分の心配だけしてて。」
大丈夫だから、と微笑んで見せると
凛はふわりと微笑んだ。
「ありがとう、家康。」
凛が寝入ったのを見届けると
起こさないように静かに部屋を出る。
「桔梗姫様っ!いけません!」
「んーや!かか!」
まだお母様が言えない桔梗は
止める女中をペシペシ叩いて
凛の元へ行こうと暴れていた。
「今日は俺が見るから。」
「家康様‥。」
暴れる桔梗を抱き上げると
ウルウルした瞳と目が合う。
「とと‥。」
自分によく似た翡翠の瞳。
今にも涙が零れそうになっている。
「桔梗、母様はお休みしてる。」
今日は俺が遊んであげるから、と
微笑んで見せると桔梗もつられて
にっこりと微笑んだ。
女中を下がらせ、中庭に出る。
久々に娘と二人きりになると、
桔梗はいそいそと庭の隅に咲く
秋桜に駆け寄り、遊び始める。
花と戯れるその姿を見ながら
家康は頬が緩んでいくのを感じた。
コロコロよく変わる表情と
愛らしい笑顔は凛そっくりで
白い肌には、自分によく似た翡翠の瞳が
よく映えている桔梗。
将来は凛様に似て、
さぞ美人になるだろうと
家臣達も嬉しそうに話していた。
(‥絶対に嫁には出さないし。)
「とと!こっち!」
小さな手のひらで手招きして、
こっち、こっちと家康を呼ぶ。
「‥どうしたの?」
桔梗の隣にしゃがむと
桔梗がふふふっと微笑んだ。