第1章 嫌われ者の入学
グレン本人には会ったことがないものの、父親のほうならよく柊家に来ていたから分かる。
スイがまだ幼い頃、真昼とグレンが一緒にいたのがバレて、一瀬栄がわざわざ謝りにきたこともある。
息子はどうか知らないが、父親は柊に完全に屈服させられている。
まあ無駄に逆らうよりかはそのほうがましなのかもしれない。
「……真昼は夢見る乙女だから」
「ほんとね、僕なんて見向きもされないよ」
「……それは深夜に魅力がないからかもね」
「うわ、ひど」
深夜が大げさに傷ついた様子を見せるが、スイは軽く無視する。
それから待つこと五分。
「……喉乾いた」
スイが唐突にそう言った。
「そう言って自販機のところに逃げようって腹積もりでしょ」
「……深夜きらい」
「あは、図星か」
深夜は彼女の単純なところが面白くて笑う。
だが、次の瞬間ふっと表情を消した。
「……まあ喉渇くのも分かるかもしれない。だって、あんなに高々とコーラが舞っているのを見たら、僕だってコーラが飲みたくなるよ」
そう言って彼が指さしたのは、通学路のほう。
まっすぐ続いているその道で、先ほどのコーラがぶつかってびしょびしょになっている男がいる。
「……あーあ、もったいない」
スイがどこかピントのずれた発言をしたが、深夜の興味は今そこにはない。
「……ねえ深夜」
「分かってるよ〜、あれが一瀬グレンでしょ」
まあ誰が見ても分かるだろう。
顔が見える距離ではないしそもそも顔も知らないが、この学校でコーラまみれになるのは『一瀬のクズ』しかいない。
周りの生徒もそれを見て笑っている。
「……クズはどちら様」
スイがぼそりと呟くと、深夜もそれに頷く。
「……まあ助ける義理もないけど。それで?一瀬グレンを試すんじゃないの?」
「うん」
深夜は返事をすると、とある呪符を取り出す。
「……起爆系か」
スイはちらりと見てそう言った。
興味がないとは言ったものの、やはりここまでくると一瀬グレンの反応が気になる。
(となりでゆっくり見物といきますか)
彼女は少し、ほんの少しだけ頬を緩ませた。