第1章 嫌われ者の入学
スイはいつも通りの時間に起きて、いつも通りに過ごしていた。
ただ、今日はいつも通りとは違う特別な日。
もっとも本人は全くそんなことを気にもしていないが。
「入学式ねぇ……どうでもいい」
スイがぼそりと呟くと、
「どうでもいいと感じるのはお前の勝手だが、さすがにサボるなよ」
と黒髪の冷たい目をした青年が言った。
「はいはい、入学式サボって後で兄様に怒られるのも嫌だしね」
彼女の兄であるこの男の名前は柊暮人。
ちなみに、今二人がいる部屋は暮人の部屋だ。
「兄様、生徒会長なんだっけ?」
「ああ、そうだ」
「そっか」
お互い無表情でやり取りをする姿は、周りからは殺伐としているようにみられるが、別にどちらとも相手を嫌っている訳ではない。
「お前も生徒会に入らないか?」
「やだ」
スイは即答する。
そんなめんどくさいものに入ってたまるものか、という心の声が聞こえてくるようだ。
だが、そんな彼女の対応に慣れているのか、暮人は言葉を変える。
「ああ、すまん、言い方を間違えたな、生徒会に入れ」
「……拒否権は?」
「ない」
スイはため息をついたものの、反論はしなかった。
兄に逆らうのは心身ともに疲れる、ということを彼女は知っているのだ。
「……まあいいや。とりあえず今日の入学式は何もしなくていいよね?」
「ああ」
「ならまだマシかな」
二人はその後、毎朝恒例の予定の打ち合わせをして、スイは暮人の部屋を出た。
「そろそろ、学校に行こっかな」
歩くのめんどくさいから車出してもらおう、などと考えながら廊下を歩いていると。
「やあスイ、おはよう」
前方から白髪の男が歩いてきた。
柊深夜だ。
「……おはよう」
「うん、相変わらず朝からテンション低いね。まあそれはともかくとして」
深夜はニコニコしながらこう言った。
「今日一瀬グレンを見に行かないかい?」