第8章 ー生ー
智にとって地獄とも思える日々は続き、やがて智はそれはそれは美しい青年へと成長した。
でも雪のような白い肌も、銀糸の髪も、紅玉の瞳も、何一つ変わることなく、産まれ落ちた時の姿そのままを止めていた。
心も幼く、年相応の知能すら持ち合わせていない智だったが、それでも照は、この年まで生き永らえたことを喜んだ。
そんな中、ある日を境に、智の様子に変化が訪れた。
それまで大野に言われるままに男を受け入れて来た智が、始めて男を受け入れることを拒んだのだ。
それだけじゃない。
大野は智の身体に残された、見覚えのない痣を見つけ、智を激しく折檻した。
白い肌に赤い筋が幾重にも浮かび上がるまで鞭で打ち、堅く閉ざした膝を無理矢理に開いた。
獣の如く乱暴に腰を打ち付け、化け物だ、悪魔だと罵声を浴びせ続けた。
身を裂く痛みに、智は声が枯れるまで泣き叫んだ。
明り取りの窓に打ち付ける雨音を掻き消すかのように叫び、血の涙を流し続けた。
怖いよ…、助けて、じゅん…
一つの命を分け合って産まれた弟の翔でもなく、智を守るために、身を粉にして仕えてきた照でもなく、ましてや智を一度も抱くことなのないまま、大野の手にかかって惨たらしく殺された母でもない…
ただ一人、始めて愛おしいと思えた相手の名前を心で繰り返し呼び続けた。
じゅん…じゅ…、僕を助けて…
まさか潤が照に足止めを食らわされていることなど、露とも知らずに…