第8章 ー生ー
二宮は積み上げられた札束を前に、十年余りの間隠し続けてきた秘密を、洗いざらい大野に打ち明けた。
片田舎とは言え、名士として名高い大野を前にして、隠し通せるわけがないと判断したからだ。
金に目がない二宮だ、金に目が眩まなかったわけではないが…
「では、その赤ん坊はまだ生きておるのだな?」
「おそらくは…」
二宮が答えるや否や、大野は高笑いを始めると、目の奥を不敵に歪ませた。
この瞬間、二宮は不用意に口を滑らせたことを、酷く後悔した。
この男を甘く見てはいけない…
二宮はその日のうちに荷物を纏めると、大野から受け取った大枚を手に姿を消した。
そうでもしなければ、我が身が危険に晒されると感じたからだ。
尤も、上手く逃げ果せたかどうかは、その後の二宮の姿を見た者がいないことから、誰にも分からずじまいのままだ。
商談を終え、屋敷に戻った大野は、すぐ様照と相葉を呼びつけると、ことの詳細を問い正した。
相葉は最初こそ固く口を噤んでいたが、次第に過酷さを増して行く折檻には流石に堪えきれず、とうとう蔵に隠し続けた智の存在を大野に明かした。
その様子を隠れ見ていた照は、智に危険が及ぶのを恐れたのか、家人が寝静まった頃を見計らって蔵へと急いだ。
奥様はともかく、あの子だけは助けなくては…
何も分からず、眠そうに瞼を擦る智に着物を着せ、傍らで眠り続ける大野の妻に指を着いて頭を下げると、照は智の手を引いた。
「さあ、急いで…」
「いや、かあた…、いっしょ…」
「辛抱おし、早くしないと旦那様が…、ひっ!」
駄々を捏ねる智の手を引っ張り、振り向いた照は、思わず息を飲んだ。