第8章 ー生ー
もし許されるなら、普通の子と同じように…
そう願っていたのは、産まれた時から智を見てきた相葉も同じだった。
暇を見つけては蔵に忍び込み、智が退屈をしないよう、遊び相手を買って出た。
相葉は智をある時は弟のように、そしてまたある時は息子のように、様々なことを教えた。
相葉もまた照同様、智のことが可愛くて仕方なかったのだ。
そして智も、相葉と過ごす時間が好きだった。
智は相葉の膝に座っては、明り取りの窓を見上げては、
「あーば、さと、おんもいきたい」
我儘を言っては、相葉を困らせた。
その度に相葉は「また今度…」と、出来もしない約束を繰り返した。
可哀想に…
先に産まれた翔坊ちゃんは自由に庭を駆け回っているというのに…
どうしてこの子は…
ただ普通の子と容姿が違うだけでこんな…
智の境遇を不憫に思いながらも、どうすることも出来ない自分にもどかしさを感じていた。
そんなある日、商談のために町に出ていた大野は、妙な噂を耳にした。
それはある医師が、ある家のお産に立ち会った際、奇妙な赤ん坊を目にした、と言うものだった。
噂話に目がなかった大野は、すぐ様その医師を尋ねた。
が、その医師を目にした瞬間、大野は我が目を疑った。
確かに見覚えのある顔だったからだ。
「なんと…、先生でしたか…。その節は世話になったな」
「い、いえ…、こちらこそ…」
驚いたのは、何も大野だけではなかった。
二宮もまた、思いがけない訪問者に目を丸くした。